(注目の教育時事を読む)第35回 小・中学校学習指導要領改訂案

藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

 

記述が肥大化し注目施策は失速 都合良い解釈で形骸化の道進む
◆課題の軽減ないまま新たな取り組み◇

本紙2月16日付は「小中の学習指導要領案を公表 記述分量現行の1.5倍」の見出しで、14日に文科省が小・中学校の学習指導要領改訂案を公表したと報じた(本紙電子版は公表当日報)。次期学習指導要領は小学校では平成32年度、中学校では33年度から全面実施される。30年度から実施される幼稚園教育要領案も公表された。

改訂案は、昨年8月に中教審初等中等教育分科会教育課程部会が公表した「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」、この「まとめ」に基づく昨年12月の中教審答申を具体化したものといえる。

「まとめ」では、「社会に開かれた教育課程」の実現が掲げられ、アクティブ・ラーニングの視点から学習過程の改善方策が示されており、小学校高学年における外国語教科化やプログラミング教育の必修化、カリキュラム・マネジメントの推進などが盛り込まれていた。

私は昨年8月の本欄で、この「まとめ」の素案に対して「学校や教員が新たに取り組むべきことを非常に多く盛り込んでいる」と評し、「多忙で疲弊し、待遇も悪い教員たちに対して、行うべきことをいっさい軽減しないままに、新たな課題を課している」と批判した。

このままでは多くの新たな取り組みが形骸化する恐れがあるとも述べた。では、改訂案はこれらの懸念を払拭できるものとなっているのだろうか。

◆耳目を集めた言葉が消えた◇

まず、注目された「アクティブ・ラーニング」は、「まとめ」ですでに「主体的・対話的で深い学び」と言い換えられ、ここに「『アクティブ・ラーニング』の視点」と付け加えられる形になっていたが、改訂案では「アクティブ・ラーニング」の言葉は消え、「主体的・対話的で深い学び」という言葉だけになっている。しかもこの言葉についてはっきりした定義は示されていない。

「主体的」も「対話的」も「深い」も幅広く解釈できる語であり、こうした言葉が都合良く解され、結局は形骸化することが考えられる。

次に「カリキュラム・マネジメント」。これについては総則で2カ所にわたって必要性が示されているのみで、教科等の内容と関連づけて具体的に述べられていない。カリキュラム・マネジメントについても、形骸化が懸念される。

「プログラミング教育」はどうか。小学校の改訂案では総則で「児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を「各教科等の特質に応じて」実施するものとされている。

教科等の項目で示されているのは、理科で電気に関して扱うことが例示されていることと、総合的な学習の時間で触れられていることにとどまっており、カリキュラム・マネジメントとの関連も述べられておらず、失速した感が否めない。

結局、「まとめ」で強調されたアクティブ・ラーニング、カリキュラム・マネジメント、プログラミング教育についてはトーンダウンし、形骸化への懸念が現実化しつつあるといえる。

◆「三つの柱」の関係述べられず◇

他方、今回は総ページ数がこれまでに比べて大幅に増えており(小学校では本文108ページから170ページ)、記述が増えた部分もある。小学校でいえば、算数が18ページから30ページ、社会が9ページから17ページ、理科が11ページから17ページである。

これら以外に、新設の外国語が9ページである。

各教科の記述で具体的に増えているのは、各学年の内容である。教科では各学年1 ̄2ページ程度の増加が見られる。

これは、今回の改訂で、全ての教科などで子供たちが身に付けるべきことを、「(1)知識及び技能、(2)思考力、判断力、表現力等、(3)学びに向かう力、人間性等」の三つの柱に整理したことから、各学年の内容がこうした三つの柱に合わせて詳しく述べられているためだと考えられる。

全体として見れば、改訂案では、これまで注目されてきたアクティブ・ラーニング、カリキュラム・マネジメント、プログラミング教育といった要素がそのまま強調されているわけではなく、「(1)知識及び技能、(2)思考力、判断力、表現力等、(3)学びに向かう力、人間性等」の三つの柱に沿って教科内容の記述が詳しくなされたところに特徴があるといえる。

ただ、「知識及び技能」や「思考力、判断力、表現力等」といった表現は、決まり文句のように繰り返されており、知識と技能との関係や思考、判断、表現の間の関係なども述べられていないので、これらの言葉も都合よく解釈される恐れがある。

せめて、思考、判断、表現の三者くらいについては、区別して論じられるべきであろう。


注目教育時事本紙ニュース要約
小中の学習指導要領案公表

文科省は2月14日、小・中学校の学習指導要領改訂案を公表。現行と比して記述分量は約1.5倍となった。「社会に開かれた教育課程」を重視するとした改訂の方向性を示した前文が新設された。小学校では5、6年生で外国語(英語)を教科化するほか、プログラミング教育の必修化が盛り込まれた。中学校では、主権者教育の充実や部活動の在り方などが明記された。この日、幼稚園教育要領案も公表された。3月15日までパブリックコメントを行い、3月下旬に告示される見通し。

改訂案では、新たに前文が設けられ、全体の方向性が明示された。教育基本法を引用し、教育が目指す人間像や目的、目標を明記。その上で、学校と社会との連携・協働の中で教育の目的実現を図る「社会に開かれた教育課程」の重要性が押さえられた。

小学校では、小学校5、6年生で外国語科(英語)が教科化される。これまでの活動の倍となる年間70コマ(1コマ=45分)となり、朝の会や休み時間などを活用した短時間学習の活用が示された。

新たに必修化となったプログラミング教育は、算数や理科、音楽、総合的な学習の時間などを活用して、プログラミング的な思考を身に付けるとした。具体的には、社会のインフラがプログラミングによって動いている事実を体験的に学ばせるなどが想定されている。

中学校では、選挙年齢が18歳に引き下げられたのを受けて、主権者教育の充実を求めた。民主政治の維持と公正な世論の形成や国民の政治参加の関連について考察するとした。教育課程外となっている部活動に関しては、「教育課程と関連が図られるように留意すること」として、持続可能な運営体制を整えるよう明記された。

特別な配慮を必要とする児童生徒への支援について、現行学習指導要領よりも大幅に記述が増えた。

幼稚園教育要領案では、幼小接続を意識し、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を新たに明記した。

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