(新しい潮流にチャレンジ)考え・議論する道徳教育への転換

教育創造研究センター所長 髙階玲治

 

子供の主体的な取り組みの重視を
○道徳教育の進化への期待

中教審の『答申』は、道徳教育について「考え、議論する道徳」への転換を示している。平成27年3月の改正によって、それまでの「道徳の時間」を「特別の教科 道徳」(道徳科)とした。大きな転換であった。ただ、当時は「考え、議論する道徳」の提唱はなかった。その後の中教審のワーキング・グループ(WG)の論議の中でこの提唱は生まれたのである。この提唱は道徳科の誕生にとって大きな意味を持つと考える。

周知のように、道徳科は他に先駆けて小学校は2018年度から、中学校は翌年度からスタートする。「考え、議論する道徳」によって道徳科はどう大きく変わるのであろうか。

「道徳の時間」の創設は1958年である。『答申』に「歴史的経緯に影響され、いまだに道徳教育そのものを忌避しがちな風潮がある」と書かれているのは、軍国主義などへの回帰ではないかという当時からの激しい抵抗があったことを示している。今もその風潮が残っているとされるが、週1時間という「道徳の時間」は極めて中途半端で、最後はお説教で終わるという一面があった。徳目の押しつけや一面的で形式的な指導に満足しない教師が多いのではないか。

『答申』は、忌避しがちな風潮以外にも、(1)他教科に比べて軽んじる(2)発達段階を踏まえない(3)主題やねらいの把握が不十分(4)単なる生活経験の話し合い(5)読み物の登場人物の読み取りに偏っている――などを指摘している。

さらに、教員によって偏りのある授業を年間通して実践するタイプがあると語る道徳教育研究の校長がいた。その話によると、体験活動だけ、モラルジレンマだけ、構成的エンカウンターだけで終始したり、意味をとり違えたエンカウンター、奇妙なカウンセリング手法、ノーコントロールのディベートなど、いわゆる「もどき授業」がみられるという。道徳の時間には評価がないことから、教師の恣意で授業が展開された例であろうか。

これまでの道徳教育には多くの課題がみられた。何よりも中教審の『論点整理』に示されているように「考え、議論する道徳科への質的転換については、子供たちに道徳的な実践への安易な決意表明を避ける余り道徳の時間を内面的資質の育成に完結させ、その結果、実際の教室における指導が読み物教材の登場人物の心情理解のみに偏り『あなたならどのように考え、行動・実践するか』を子供たちに真正面から問うことを避けてきた嫌いがある」が実態であろう。

「考え、議論する道徳」への転換はまさに子供の主体的な課題への取り組みを目指しているといえる。

○1主題1時間の授業はやめよう

これまでの道徳の時間は説教で終わったり、形式的な道徳性の押し付けであったりすることが多かった。それに対して『答申』は道徳科の「見方・考え方」として「様々な事象を、道徳的諸価値の理解を基に自己との関わりで(広い視野から)多面的・多角的に捉え、自己の(人間としての)生き方について考えること」(括弧内は中学校)としている。

多面的・多角的に考えるとは、課題に向き合ったとき、主体的に判断し、考え、追究しようとする意欲や態度を持つとともに、仲間と対話する中で何が本質であるかを多様な角度から論議することで、その過程を経て深い認識に達しようとする思考作用である。

その結果として当然ながら授業展開が変わる。WGは次のような3つの視点をあげている。

(1)読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習。読み物資料が無くなるわけではない。教材の登場人物と自分との関わり合いを多面的・多角的に考えることで、登場人物に自分を投影して自己認識などを深める。

(2)問題解決的な学習。生きる上で出合う多様な道徳問題について、自ら考え、対話しながら深め合う中で、道徳的価値の意味把握を深め、道徳的な行為についての資質・能力を養う。複数時間による単元的なまとまりが必要になろう。

(3)道徳的行為における体験的な学習。役割演技などの体験的学習によって実際の問題場面で実感を持って理解することで、様々な問題等を主体的に解決するために必要な資質・能力を養う。

こうした考え方に積極的に賛同するが、結果として「考え・論議する」ことで授業は大いに紛糾するであろう。私は数年前に本紙で「1主題1時間の授業はやめよう」(08年11月6日付)と提唱したが、確かな道徳性を身に付けるためには「主体的・対話的で深い学び」が必要なのである。

一方、教師は教科書内容に依存する傾向が強いことから、「考え・議論する」ことに十分耐えられるような教科書選定が極めて重要になる。いじめ問題の論議など、道徳に関わる実践的な課題もまた多いのである。

さらに学級経営や特別活動等との関連、実社会・実生活に活用できる道徳性の育成について十分考えたいことである。

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