(新しい潮流にチャレンジ)自己肯定感を育てる教育(2)

eye-catch_1024-768_takashina-challenge教育創造研究センター所長 髙階玲治

子供の成長期待を積極的に
○子供の成長に不満な親の傾向

わが国の若者の自己評価の低さは、家庭の養育の大きな影響がみられるのではないか、という考えがある。子供の頃から、何よりも親が子供の「よさ」を認めない傾向があるのではないか。

実は、極めて驚いた調査結果がある(PDF参照)。それを1998年当時の「ゆとり教育」を掲げた中教審答申の補足資料で最初に見たとき、果たして本当かと目を疑った。文部省で行った「家庭教育に関する国際比較調査」(1993)であるが、「子供の成長についての満足度」を聞いていて、スウェーデン、イギリス、アメリカは、0~3歳時点で9割以上、10~12歳でも8割以上である。それに対して日本の親は0~3歳時点で68・7%、タイに次いで低い。それが、10~12歳になると36・3%に低下する。一方、タイは74・1%まで上昇する。

なぜ、このような結果なのか。その背景にある要因の説明はないので理解不能であるが、わが国の親は子供の成長に満足していなく、むしろ年齢が上がるにつれて満足感が低下するという実態には驚くほかはない。

例えば、次のような話がある。

「イギリスで子供を育てた日本人研究者は、イギリス人の子供をほめると母親が『ええ、彼は一生懸命やりました。とても誇りに思うわ』と答えると記している。私もイギリスで母親が自分の子供を手放しでほめる場面に幾度も居合わしたが」(『日本の子どもと自尊心』佐藤淑子、中公新書、2009)

それに対して、日本の母親の場合、子供がほめられると大慌てで「とんでもない」と否定する。

○自尊感情を育てる教育とは

日本の親は子供の成長を素直に認めない傾向は一般的であろうか。子供の成長の何に期待しているのであろうか。また、期待どおりにならないとき「わが子の成長」の方向をどう考えるのであろうか。

一方、学校教育の場でも、個性や努力よりも学力で判断する傾向がある。ある面で優れていても学力が低いと軽くみたりする。そのため、自己評価や自己肯定感、自尊感情が高まらない、という。その結果が、夢や希望への成長促進とも言うべきものが疎外されるのではないか、と考える。これは深刻な問題である。

ところで、自尊感情とは何であろうか。自尊心やプライドなどの言葉は一般的に通用しているが、それらは必ずしも積極的なよい意味合いでない場合がみられる。しかし、セルフ・エスティーム(自尊心、自尊感情)として積極的な意味付与する場合、単にプライドがあるなどの感情的な意味のみでなく、何かにチャレンジして達成を目指す動機を示す意味がある。必要なのは、成長に資する自尊感情である。

つまり、セルフ・エスティームは「自分自身の存在や生を基本的な価値あるものとして評価し信頼することによって、人は積極的に意欲的に経験を重ね、満足感を持ち、自己に対しても受容的でありうる」という定義があるという(佐藤、前掲書)。ただし、学者間で若干判断は異なるというが、生活態度として望ましい意味合いが強いと考えてよいであろう。

佐藤淑子氏(鎌倉女子大学教授)は、日本の子供の自尊心を高める方策として「自己主張」を育成すべきでないか、と提唱している。わが国の養育は子供に謙虚さを求めるが、子供が自分の考えを持ち、はっきりと意見を言えるように育ってほしいと願う気持ちは強いと考えている。

ただ、周囲の環境は自己主張の強い子供を必ずしも歓迎しない雰囲気がある。そこに自尊感情を育てる大きな課題がみられるとする。

一方、イギリスの学校教育では「話すことによって学ぶ」ことに焦点を当てた指導を行っているという。単にコミュニケーションのスキルのみでなく、論理的思考や批判的思考などセルフ・エステームに関連した教育である。わが国でも最近、特に言語能力の育成や「主体的・対話的で深い学び」が強調されていることから、「自己主張」の教育は可能性が大きいであろう。

○自己肯定感を高める教育

自己肯定感を高める教育において、人間が生きていくうえで、個人としての独立を重視するのか、相互依存的な関係性の中で過ごすのがよいのか、という対比的な課題がみられる。そして、国際比較調査において、「独立的自己」の傾向がある西欧人に対して、日本人は「相互関係的自己」とされる。さらに日本人の傾向として、自分と他者が未分化であると説明される。そのため、わが国は「以心伝心」「あいまいで間接的な表現」が多いと言われる。

そうした社会構造において、「自己主張」を高めることは可能か、という佐藤氏の問いでもある。

これからの社会がますますグローバル化が進展する中において、個々が自己肯定感を十分発揮できることの期待は大きい。そして、自己肯定感の育成は可能であると考える。

その場合、形成すべき資質・能力は「独立的自己」へのみ傾斜するのではなく、「相互関係的自己」を保ちながら、両者のバランス的な成長の方向であろう。

実のところ、自己肯定感育成の萌芽は次期教育課程などに多様に示されている。例えば、新学習指導要領の学習評価の考え方をみても「児童の良い点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにすること」と書かれている。子供の学びを結果のみで評価するのではなく、頑張ったことなどを積極的に認め、励ますことの大切さである。

このことを学校教育において徹底するだけでも、子供の自己肯定感はかなり形成されるのではないか。このように「自己肯定感」の育成は、日常の授業などにおいて積極的に進めることが可能であって、そこに学校教育の大きな役割がある。

実は、子供の自己評価の実態を調べているうちに、極めて高いデータを示す学校や地域がみられたことがある。学校や地域が自尊感情的な雰囲気を醸成すれば、自己肯定感を高めることが可能である、と確信できるものであった。

(参考資料:図表PDF)


参考資料
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