(本紙編集局はこう読む 深掘り 教育ニュース) 浸透するAIの教育活用

深掘り・小宮山教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子 (リクルート次世代教育研究院院長)

その3つの課題とは
■AIの今

ここ数年、AIという言葉を見ない日はない。

一昨年あたりから少しずつ、教育においてもカンファレンス等が増え、現に今月だけでもEdvation Summit 2017における「AIは教育にどう活かせるか?」(電子版11月6日既報、本紙11月16日号既報)と、日本デジタル教科書教材協議会が主催した「AI時代の教育を考える」(電子版11月9日既報、本紙11月20日号既報)が開催され、私自身も登壇する機会を得た。

また、藤井聡太四段が史上最年少でプロ棋士になり、29連勝という公式戦での連勝記録を更新したことは記憶に新しい。AIを搭載した将棋ソフトを活用していたことが大きく影響しているといわれる。

中国では、AIロボットが医師試験に合格し、医療過疎地での初期診断も可能との報道があった。

ただ、AIの議論は今に始まったことではなく、初出はJ.McCarthyによる1956年のダートマス会議での発言だ。50年代に第一次AIブームが起き、80年代の第二次ブームを経て、現在は第三次ブームの真っただ中にある。

産業革命の視点でいえば、これまでと違う点は、AIが自ら価値を生み出せることだ。そのため「AIやロボットに自分たちの仕事が取って代わられるのではないか?」という議論が起きるのだろう。

確かに、Cathy Davidsonデューク大学教授は「2011年に小学校に入学した子供たちの65%は、今存在しない職に就く」と話す。

2015年には野村総研が「人工知能やロボット等による代替可能性が高い・低い100種の職業」を発表している。「低い」に分類されている職の中には、小・中学校教員、学校カウンセラー等が含まれる。学校に講演に伺う機会があるのだが、その際必ず先生から質問としていただくのは、「私たちの仕事はAIに代替されてしまうのか?」という問いだ。

私は「否」と答えている。ただ、教員の役割はかなり変わる。今後、教員の役割はコーチングやメンタリング、ファシリテーションに重きが置かれ、授業等はテクノロジーによって個別習熟度別におのおのが行うスタイルに変わる可能性がある。

■教育活用の現況

AIが自動運転や人材領域、医療等で活用が進む一方、最後にAIが入ってきている分野が教育といえる。

民間でもAI利用は行われつつあり、リクルートではオンライン授業である「スタディサプリ」のログを用いて、東京大学大学院の松尾豊准教授とともに個別習熟度別学習について共同研究を実施している。

例えば、学習者の動画視聴や問題回答の学習ログを深層学習を使って解析し、改善を重ねた結果、小学校5年生の算数において、精度90%で「解けない問題」の30%を当てることができた。

解けない問題を予測することは、学習プロセス・時間の効率化にとどまらず、学習者のモチベーションの維持や、効率的な学び直しに大きく寄与することができる。

海外に目を向けると、例えば中国では2013年に習近平国家主席が「テクノロジーは教育に必要」と発言してから、教育領域においても、共産主義と資本主義のハイブリッドで爆発的に、AIを含めたテクノロジーの普及がなされている。

昨年に北京で開催された中国最大規模の教育カンファレンス「教育科技大会」では、北京大学教授の話が印象的だった。

「Moocsは既存の大学に大きなプレッシャーを与えている。自分の孫に『大学に通わなくてもいいよ。ただ、オンラインで学べばいい』と話す日も近いかもしれない。今の教育の最大のチャレンジは、患者はかかりつけ医がいるが、生徒にはかかりつけの先生がいないことだ」

AIがそのかかりつけの先生になり得る可能性はある。中国では、AIと脳科学との融合についても議論が行われており、今後も注目していきたい。

■AIを利用する上での課題

課題は主に三点あると考えている。第一にデータの利活用だ。

そもそも利用できる教育領域のデータが少ない。例えば全国学力テストや、自治体独自で実施しているテスト結果のローデータ(何も処理・分析されていないデータ)を民間利用し、他のデータと掛け合わせて分析できれば、さまざまな傾向や予測ができる可能性がある。

ただし、データが存在してもフォーマットが統一されていない場合には、加工する必要があるため工数が掛かる。

第二に、データを扱う上で重要な、個人情報保護規定の整備だ。

現在、教育に関する個人情報保護の規定で統一されたものはなく、各自治体の条例に沿って利用している状況だ。

第三に、これが最も重要かもしれないが、「AI」という言葉の定義がまちまちなため、明確にし、共通認識を持つ必要がある。

その上で、AIができることとできないことの整理をするのが肝要ではないか。

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