(教育時事論評)研究室の窓から 第31回 世界で評価される日本の授業研究

eye-catch_1024-768_chichibu国立教育政策研究所研究企画開発部総括研究官 千々布敏弥

11月末に名古屋大学を会場に世界授業研究学会が開催された。

授業研究は明治初期の頃から日本の学校で自主的に実践されるようになった現職教育の手法であり、日本独自のものである。法律に規定されている教員研修とは別に学校が自主的に実施する研修として長らく実践されてきた。効果は多くの教育関係者が認めるところであり、国の審議会答申でも授業研究の重要性は繰り返し指摘されてきた。

例えば次期学習指導要領改訂について提言した中教審答申は、「わが国の教員に対する国際的な評価はもともと高く、特に、各教科等における授業改善に向けて行われる多様な研究に関しては、海外からも極めて高い関心が寄せられている。とりわけ、各学校における教員の学び合いを基調とする『授業研究』は、わが国において独自に発展した教員研修の仕組みであるが、近年『レッスン・スタディ』として国際的な広がりを見せている」と記述している。

海外における授業研究の推進は、大学研究者などの授業研究コンサルタントによるもの、JICAが支援するもの、現地政府の推進によるものに分けられる。アメリカでは日本人研究者が授業研究コンサルタントの会社を立ち上げ、各地の学校に指導に赴くほか、本場の授業研究の参観を希望するアメリカの教師たちを引き連れて日本の授業研究ツアーを開催している。

世界授業研究学会会長のピート・ダドレーは、ロンドンで学校コンサルタントとして活動していた。さまざまな手法で学校のコンサルタントに当たっていたが、授業研究の手法を使ったときの学校の変容が最も大きかった。

彼はケンブリッジ大学の大学院に入学し、授業研究をテーマとして博士号を取得した。現在、ケンブリッジ大学の教員となり、大学がコンサルティング契約を結ぶ諸外国で授業研究の指導に取り組んでいる。

JICAが支援する国において授業研究を実施する国は27カ国に上っている。シンガポールは国内の初等中等学校に校内研修への取り組みを義務付け、その手法としてアクションリサーチと並んで日本の授業研究が取り入れられている。

日本の授業研究が世界的に注目されるようになったのは、1999年にアメリカで出版された『ティーチング・ギャップ』が日本の授業と授業研究を賞賛したことに始まる。同書がベストセラーになると同時に、瞬く間に世界中で授業研究のブームが起こり、2007年に世界授業研究学会が設立されるに至った。日本発祥の授業研究でありながら、学会は香港、台湾、シンガポール、ブルネイなど、主に海外で開催されてきた。日本で開催されたのは11年に東京大学を会場として実施されたのが初めてで、今回は2度目となる。

11年開催時は24カ国600人が参加した。今回は35カ国900人が参加している。日本の授業研究は着実に世界に広まりつつある。この学会の参加者は研究者が主であるが、一般の教員も参加している。特にシンガポールの教師たちは、海外の研修に政府が補助金を支出しており、毎回多数が参加している。

この世界の潮流を日本の教師たちが肌で感じることを願って、私は大会実行委員会の一員として全国の教委や教育センターに本大会の案内を送付した。日本の教師たちが参加しやすいように日本語で開催するシンポジウムも設けた。残念ながら日本の教師たちの参加はそれほどでもなかった。英語でやりとりされる国際学会への心理的な抵抗が強かったのだろう。

シンガポールの教師たちは公用語が英語であるから、英語ベースで情報収集している。コンピテンシー、協調学習、学習科学など、日本では研究者しか口にしないような言葉がシンガポールの教師たちからはよく出てくる。海外の大学に留学してキャリアアップを図る教師もいる。日本の教師は自らの強みを認識すると同時に他国に見習った方がよい側面もある。

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