(新しい潮流にチャレンジ)学校の教育ビジョンの構築に向けて

eye-catch_1024-768_takashina-challenge教育創造研究センター所長 髙階玲治

移行期間における経営戦略

〇持続可能な学校づくりに向けて

まもなく次期学習指導要領への移行措置が始まる。7月7日に移行措置の内容が文科省から公示されて、小学校英語の特例などの扱いや道徳の指導の在り方を論議している学校も多いであろう。

次期学習指導要領について、今年度は「周知・徹底」として1年間の猶予があったが、学校の「理解・徹底」はどの程度進んだであろうか。

言うまでもなく、学習指導要領は「総則」に学校が適切な教育課程を編成して学校教育の目標を達成することを明記しているが、移行措置の内容の「理解」はさほど難しいものではない。

例えば、おおよそ次のようである。(1)道徳科、総合的学習、特別活動は完全実施(2)小学校英語科は15時間に限って総合的学習などから授業時間を借用したりして実施(3)社会、算数・数学、理科等は一部学年の入れ替えを行う内容がある(4)その他の教科等は新学習指導要領による指導が可能――というものである。

ただ、学習指導要領の「理解」から「実践」への移行において、例えば小学校英語のようにかなりの困難を伴うものがある。新たな学力の3つの柱、「主体的・対話的で深い学び」、カリキュラム・マネジメントなども同様である。形式的な移行ではなく、実施に伴う教師の指導方策等について十分な対策が必要である。

移行の先には、小学校は2020年の完全実施がある。当然、校長や教員の異動の影響を最小限にする措置も必要である。つまり、持続可能な学校づくりを念頭においた長期的な展望を持つ学校経営が必要になる。

それは新しい教育課程編成の基盤づくりというべきものである。それを移行期間の当初から確立することは難しいが、徐々に移行する中で校内を組織化する必要がある。何よりも2020年からの教科書が重要な役割を持つことで、それに対応する教師力を高めていく必要がある。

〇校長のリーダーシップ確立のチャンス

実のところ、新教育課程への移行は校長にとってリーダーシップを発揮するチャンスである。現行の教育課程編成は、学習指導要領順守型になりがちで、学校としての「特色」を出せないまま過ごしてきた校長も多いであろう。

その意味では、移行期間は新たな教育ビジョンを掲げる絶好の機会になる。新学習指導要領の理念を踏まえ、自校の持つ課題解決を目指し、さらに2020年代への持続可能な基盤づくりを考える。

言わば、単なる新教育課程への形式的な移行はマネジメントに過ぎない。しかし、自校の課題解決を目指す移行方策は、マネジメントを超えて新たな経営方略を示すリーダーシップそのものである。形式的な移行に満足するわけにはいかない。

校長の役割は大きく言って、2つある。1つは自校の進むべき方向を明確に示すことである。他の1つは、その方向に向けて教職員を動かし育てることである。まずは1つ目であるが、教育ビジョンや経営戦略を示すことが重要である。

いくつかの手立てがある。学校の取り組みにとって重要なのは、次期学習指導要領の理念の十分な把握である。多くの解説書が発行されているが、重要なのは「総則」等の徹底した読み込みである。今回の「総則」は新たな理念等がかなり多くみられるのが特徴である。そうした理念等を把握したうえで、校長としての自校の新たな教育構想を考える。校長は、学校教育の目的・目標を受けて学校の教育課程を編成する。その場合、学習指導要領はどこの学校でも実施すべき強制的圧力と言ってよい。法制度がもたらす圧力である。それを自校の教育活動にどう具現化するか、である。

(1)次期学習指導要領はこれまでとどう異なるか、変革をうながすための明確なビジョンを示す必要がある。まずは「総則」等を徹底して読み解く。全体として何が明らかにすべきか。それを引き出すことで次期教育課程のイメージを描いていく。

(2)課題の相互関連を考える。例えば、学力の3つの柱は、学習指導要領の教科等の内容である基礎と活用とどう関連するか。また、それらと「主体的・対話的で深い学び」にどう結びつくか。授業はどう変わるか。年間指導計画と教科横断との関連やカリキュラム・マネジメントの関連はどうか、など構造的に考え、見方・考え方を具体化する。

(3)このような学習指導要領から取り出した内容を言葉で表してみる、チャートで示してみる、グループに分けてみる、などの操作を行ってみる。自校の教育実践に適合できる新たな発見が見いだせる可能性がある。

(4)また、作業を行うことで校長としての認識や理念を持ちながら、さらに教職員の考えを集約する。例えば、次期教育課程についてそれぞれの教員が何を求めているかをフリー討論するのでもよい。KJ法を活用して自校の教育の在り方について課題発見↓課題追究するのでもよい。自校の教育の在り方について「夢を語り合う」場を設定してもよい。「批判厳禁」というブレーン・ストーミングで思いっきりアイデアを求めるのもよい。

〇教職員の発想は案外、知見に満ちた教育活動を

考え出すことが多く、教育ビジョンをより豊かにしたり、教育活動に具体的に組み入れることが可能になったりする。

こうした作業を通しながら、校長は持続可能な自校の教育ビジョンを確定していく。

つまり、こうした構想を持つことは、学校のグランド・デザインをどう考えるか、ということである。校長の識見の確立が明確であれば、教職員のみでなく、保護者や地域の信頼を高めることにもなる。

〇経営参画型の学校づくりを目指す

校長としての次の役割は、掲げた教育ビジョンに教職員の意思を統合し、教師一人一人の力量アップを図りながら、持続する学校づくりを進めることである。

教育経営ビジョンの明確化で次に行うことは学校教育目標の設定である。ただ、学校教育目標は学校全体の統合的な目標であるために志向的・抽象的な表現が多くなる。必要なのは実践に結びつく具体的な目標である。例えば、「学力の向上」「豊かな心の育成」「開かれた学校の推進」という目標を掲げても、それらは今日的な課題であることは確かであるが、包括的で抽象的である。

このような目標を「ハードな目標」と言いたいが、必要なのは学年レベルで実践可能な「ソフトな目標」である。つまり、目標表現を学年レベルで実践可能な文言として示すことである。

それは統合的な教育実現を目指す学校の教育目標レベルでは難しい。難しいが、例えば「わかる・できるを実感できる授業の工夫」のようなソフトな文言に変えていく。ただ、この目標もまたやや抽象的であって、例えば小学校の低学年と高学年では教育指導のあり方がかなり異なってくる。

そこで学校の教育目標を、さらに学年相応に文言を変える必要が生まれる。学年目標の設定である。さらに学級目標として、柔軟な幅を持たせる表現があってもよい。

このように実践志向の学校教育目標を考えると、そこに目標設定への教員全体の意思決定が重要になる。学校全体のコミュニケーションの大切さである。それは必ずしも協議の場を設定することを意味しない。全体で集まらなくとも、学年それぞれが意思を集約するだけでコミュニケーションは成立する。ミドル・アップダウン・マネジメントを活用するのである。

大切なのは、学校の教育目標という、統合された教育ビジョンをそれぞれの教員が、どう受容し、どう実践化するか、という全員経営の意識である。

それは学校教育目標の具現化のみでなく、多くの教育実現を推進していくうえで極めて必要な組織活性化の手立てである。

学校は、その小集団的組織をフルに活用して、「ものを言い合える」集団に転化すべきである。そのことが教職員個々の意識を高め、成長につながっていくのである。