(教育時事論評)研究室の窓から 第32回 少子化対策・幼児教育無償化は十分なのか

eye-catch_1024-768_chichibu国立教育政策研究所研究企画開発部総括研究官 千々布敏弥

人口問題に関心を寄せる人は多いはずだ。日本創世会議議長である増田寛也氏(元岩手県知事、東京大学公共政策大学院客員教授)が2014年に公刊した『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)では、2100年には人口が現在の40%減の5千万人になると予想している。人口が減少する要因は直接には出生率であるが、なぜ出生率が低いままなのか、あるいは低下するかの要因が増田レポートの要である。

人口減少に伴い、産業が都市に集中し地方に働く場がなくなる。すると働き手である若年層は都市に流入し、地方の過疎化、人口減少がさらに加速する。その先に消滅する地方都市が続出する(北海道東北地方で80%、山陰地方で75%、四国で65%)。その分、都市で出生数が増加すれば人口は維持されるはずだが、都市の育児環境が恵まれていないために都市でも出生率は上昇しない、むしろ低下すると予想されている(東京都の出生率は全国最低で1・13%)。

都市の育児環境とは、具体的には保育園、幼稚園の確保とその費用だ。長期的には高校と大学の教育費も課題になってくるが(民主党政権下ではその視点から高校無償化施策が推進された)、出生率に影響を与える要因としては幼児教育の時期がより重要となる。そこで、都市における育児環境の改善という文脈で少子化対策が重要となってくる。現在の少子化対策の基本は12年に成立した「子ども・子育て支援法」である。同法では市町村は保育を利用する家庭の見込みに関する5年計画を策定し、その見込みに基づいて保育園設置などの計画的な整備を進めることとなっている。

14年7月に出された教育再生実行会議第5次提言は「幼児教育の機会均等と質の向上、段階的無償化を進めた上で、国は、次の段階の課題として、全ての子供に質の高い幼児教育を無償で保障する観点から、幼稚園、保育所及び認定こども園における5歳児の就学前教育について、設置主体等の多様性も踏まえ、より柔軟な新たな枠組みによる義務教育化を検討する」と、幼児教育の無償化を段階的に実施することの検討を提言している。

昨年6月には待機児童解消を目指した「子育て安心プラン」を策定した。12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」では、「広く国民が利用している3歳から5歳までの全ての子供たちの幼稚園、保育所、認定こども園の費用を無償化する」と記述している。待機児童についても「『子育て安心プラン』を前倒しし、2020年度までに32万人分の保育の受け皿整備を着実に進め、一日も早く待機児童が解消されるよう、引き続き現状を的確に把握しつつ取組を進めていく」と記述している。

同月21日に公表された人生100年時代構想会議中間報告は、「幼児教育の無償化を一気に加速する」「『子育て安心プラン』は、2018年度(来年度)から早急に実施していく」と、一層の施策推進を宣言している。これらの施策により、少なくとも低所得世帯に対する幼児教育無償化はほぼ完成している。今後はその対象者が拡大し、やがて完全無償化が実現できるだろうし、待機児童問題も解消することになるだろう。しかし、それで十分なのだろうか。

増田リポートは、出生率回復が5年遅れるごとに将来の安定人口数は300万人ほど減少するとしている。一刻の猶予もならないはずだ。それほど重要な施策であるならば、なぜ必要な予算措置を至急に講じないのかということだ。

現状では、マンションが建設されると地区の小学校では教室が増設される。そのように法律が求めているし自治体も予算を措置する。同様の考え方を幼稚園や保育園にも当てはめたならば、現状の課題は一挙に解決するはずだ。そうならない要因には、増田レポートに欠けている別の視点があるのではないかと考えている。