(本紙編集局はこう読む 深掘り 教育ニュース) 文理融合教育の必要性

深掘り 解説委員 鈴木教育新聞特任解説委員 鈴木 崇弘 (城西国際大学大学院教授)

より広い視野を身に付けるために
■社会が大きく変貌

筆者は、もともとは政策系の社会科学が専門だが、最近は新しいテクノロジーや仕組み、その中でも特にAI(人工知能)、シンギュラリティ(技術的特異点)、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)、IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーン、3Dプリンター、ドローン、ナノテク、ゲノム(生物の全遺伝子情報)、シュアリングエコノミー、ベーシックインカムなどに関心を持ち、研究を進めてきている。

それで分かったことは、個々の言葉・考え方やテクノロジー・サイエンスは、決して個々独立して存在しているのではなく、相互に関連して補強し合っているということだ。

これまでのテクノロジーなど以上に、人間の生活や社会に深く浸透していくだろう。そして、テクノロジーと人間および社会との関係性はより深く、より濃密になり、従来のテクノロジーなどをはるかに超えて、人間と社会を大きく変貌させるだろう。

中でも特にAIに関して言われる「シンギュラリティ」(注1)の問題は、人間社会や人間の存在を大きく変えてしまう可能性が高い。

そう考えると私たち、特に若い世代は、新しいトレンドを理解し、それへの対応を考える必要がある。さもないと、大きな問題や課題に直面し、社会不安や混乱が起きないとも限らない。

■若い世代の無知・無関心

ところが筆者が学生や若い世代に、テクノロジーなどの方向性や、それらと社会、人間との関係性について質問すると、実に知らないことが多い。さまざまな要因や理由があるだろうが、最も重要な要因は、日本の教育における文系と理系の分離ではないだろうか。

現在の日本では、文系学生は、高校までの基礎的な理系的素養はあるといえるが、先端的テクノロジーやサイエンスを学ぶ機会はない。社会科学系学生のほとんどは、社会に対する、より広い視野や関心があるはずだが、科学技術に関しては、他の文系学生と同じレベルだろう。

他方、理系は文系学生と比較すれば、新しいテクノロジーとサイエンスへの理解や関心が高いはずだが、いくつかの問題がある。

一つの象徴的事例を挙げたい。AI研究の第一人者である松尾豊東大特任准教授は、社会の中でのAI活用に関心があり、積極的に企業などを訪問して現場を見て、その活用を考えている。企業訪問時には、研究室所属の数十人の学生・院生に参加を呼び掛けるが、参加者数は非常に少ないそうだ(注2)。

つまり学生は、AIに関心があっても、社会には関心がないのだ。

理系学生の場合、TLO(技術移転機関)や企業などとの接点はあるが、自身の関心分野の研究に没頭するだけで、社会や専門のテクノロジー・サイエンス以外を学ぶ機会はほぼない。

つまり文系学生は「科学」を知らず、理系学生は「社会」を知らないのだ。

だが先述のように、今起きつつあるテクノロジーやサイエンスなどの変化は、社会や人間生活に密接に関わり、劇的な変化をもたらすと予想される。その来たるべき未来社会では、「社会」も「科学」もある程度理解できない限り、その変化を生かし、社会を切り開いて生き抜いていくことはできない。

そう考えると、現在の日本の若い世代(学生)は、今後の未来や社会の中で、特にグローバル化が進展する国際社会において、非常に厳しい立場に立たされかねないのではないかと、危惧するところだ。

■文理融合教育構築の必要性

今こそ日本の教育機関の「文理系分離システム」を改め、早急に「文理系融合的な教育システム」に変えることが求められる。

現在、この観点からの制度見直しは必ずしも積極的に議論されていないが、日本社会全体、そして政治や行政においても、そのような議論を即刻開始し、未来対応型教育制度の構築に動いていく必要がある。

◇ ◇ ◇

(注1)「シンギュラリティ」とは、コンピューターが人間の能力を超え、技術開発と進化の主役が人間からコンピューターに移る特異点を意味する。

(注2)PHP総研のPHP未来倶楽部の「人間社会とAI(人工知能)」に関する研究会での説明。

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