(本紙編集局はこう読む 深掘り 教育ニュース) 急伸する中国 研究者らも急増

深掘り・小宮山教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子(リクルート次世代教育研究院院長)

米国立科学財団(National Science Foundation)が先月19日に発表したレポート”Science & Engineering Indicators 2018″。同レポートには、米国内における科学工学分野の進捗や、他国との比較調査結果が掲載されている。注目すべき点はいくつもあるが、その中でも今回は、同分野を巡る中国に関する現況を、他国との比較から俯瞰(ふかん)してみたい。

■桁違いの研究投資

中国について考察する前に、世界における研究投資額を紹介する。

2015年の科学工学分野における研究投資額は世界全体で1兆9160億ドル(約191兆円)。地域別で見てみると、アジアが7210億ドル(約72兆円)で全体の37・6%を占め1位で、中国が牽引している。それに北米5350億ドル(約53兆円、27・9%)、欧州4150億ドル(約41兆円、21・6%)と続き、残り10%を他の地域で占めている状況だ。

国別に見ると、中国における同分野への投資額は4090億ドル(約40兆円)で、米国の4970億ドル(約49兆円)に次ぐ。中国と米国だけで世界全体における投資額の47%を占めている状況だ。一方の日本はと言えば、1700億ドル(約17兆円)だ。

中国は政府だけではなくBATと呼ばれるBaidu(百度)、Alibaba(阿里巴巴集団)、Tencent(騰訊)やHuawei(華為技術)などの民間テック系企業も、莫大な投資を行っている。

例えば、AlibabaはAIや量子コンピュータなどへの研究開発費を、3年で150億ドル(1兆5千億円)まで拡大すると発表。ブルームバーグの調査によれば、同社が過去3会計年度に投じた研究開発費は64億ドル(6400億円)なので、今回の発表は2倍以上の投資となる。

米国、ロシア、イスラエルなど計7カ所に研究所を開設し、研究員を100人採用。複数の大学との共同研究に投資する予定だ。

日本において、そこまで研究開発費を投じる会社があるだろうか。公私ともに莫大な投資をしてきた結果が、少しずつ現出している。

中国が科学技術分野の論文数で米国を上回ったことも、その一つの証左だろう。中国は全体の18・6%を占め、次に米国(17・8%)、インド(4・8%)、ドイツ(4・5%)、英国(4・3%)と続く。日本は第6位で、13年からの減少傾向に歯止めがかからない。

数があれば良質な論文も相応に存在すると考えるのが妥当だ。莫大な予算に十分な研究環境、そして席も用意されているとなれば、今後は優秀な学者が中国に流出する可能性がある。

■学士取得者数の急増

同財団のレポートで見逃してならないのは、論文数だけではない。

02年から始まっている中国の学士取得者数の急増だ。02年に38万5千人だったのが、14年には165万4千人まで増加している。同年の米国は74万2千人。中国は米国の倍以上の学士取得者を輩出している。

一方、日本を見てみると、02年に35万7千人で、14年に31万6千人。減少傾向で増加する兆しがない。人口の規模や構造が異なるため単純な比較はできないが、事実としてこれだけの違いがある。

これが意味するところは、中国では科学工学に関して基礎的な知見を持った人が量産されており、現在では多くの産業で活躍しているだろうということだ。

学士取得者ほどの急増ではないものの、博士号取得者についても増加している。00年に8千人だったが、14年には3万4千人に増加。同年の米国は4万人のため、中国が米国を抜くのも時間の問題かもしれない。

研究者については、08年159万2千人となっており、00年の2倍以上の数字。15年は161万9千人で、138万人の米国を突き放した。

また、海外で学ぶ中国人留学生も増加している。

筆者は現在、米国務省教育文化局のプログラムで、米国に滞在している。ワシントン、ボストン、ルイビル(ケンタッキー州)、サンフランシスコの大学を訪問し、教授たちと話したが、異口同音に「日本人の留学生は以前に比べて少なく、アジアでは圧倒的に中国人が多い」と話す。

多くが中国に戻り、海外で蓄えた知見がそのまま中国国内で生かされるだけでなく、彼らはリエゾンとして海外の生の情報に触れる機会を持ち続ける。

日本における留学支援については「トビタテ! 留学JAPAN」など充実したプログラムもあり、以前よりも留学へのハードルが低くなっている。学生たちには、ぜひ活用してほしいと願う。

※本文中のドルは、分かりやすいように1ドル=100円として計算