(注目の教育時事を読む)第46回 高等学校学習指導要領の改訂

eye-catch_1024-768_tyumoku-kyoiku藤川大祐千葉大学教育学部副学部長の視点

探究を社会とつなげられるか 大胆な教育課程改革を望みたい
◆高大接続への対応が重要な課題◇

本紙2月19日付で報じているように、2月14日、文科省は高校新学習指導要領案を公表し、パブリックコメントを行っている。

新学習指導要領案は基本的に、昨年改訂された小・中学校新指導要領の方向にある。「社会に開かれた教育課程」を掲げ、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」で「何ができるようになるか」を整理し、「主体的・対話的で深い学び」を目指し、学校にカリキュラム・マネジメントの確立を求めるといったことは、小・中学校新指導要領と完全に重なる。

だが、高校新指導要領は、小・中学校と同じことをなぞればよいというわけではない。今回は、高大接続改革への対応という重要な課題があったからだ。文科省が強力に進めている高校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的な改革において、今回の高校指導要領改訂は重要な位置を占める。

では、高大接続改革の観点から見たとき、新指導要領案はどのように評価できるのであろうか。

高大接続改革が目指すのは、「学力の3要素」の確実な育成である。「学力の3要素」とは、2014年12月22日の中教審答申で示されたもので、(1)「主体性・多様性・協働性」を養うこと(2)その基盤となる「思考力・判断力・表現力等」を育むこと(3)さらにその基礎となる「知識・技能」を習得されること――と示されていた。これらは指導要領案に記された「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」に対応している。

◇多様な他者との協働が求められていない?!◆

だが、中教審答申と指導要領案との間で、重要な違いが2点あることに着目しなければならない。

第一に、順序である。中教審答申では「主体性・多様性・協働性」が第一に掲げられ、その基盤やさらにその基礎として残りの2要素が挙げられていた。指導要領案では順序が逆になっており、「知識及び技能」が第一に掲げられている。

第二に、表現の違いである。答申で第一に掲げられている「主体性・多様性・協働性」は、指導要領案では「学びに向かう力、人間性等」となっている。

これら2点の違いは、中教審答申が強調していたはずの「主体性・多様性・協働性」が弱められていることを意味するのではないか。

答申は「受験のための教育や学校内に閉じられた同質性の高い教育」を批判し、「主体性・多様性・協働性」を第一に掲げていた。他者を説得したり、多様な人々と協働したりして社会を先導するイノベーションの力をつけるには、「主体性・多様性・協働性」を養うのが重要ということが言われていたのである。

指導要領案の具体的な記述を見よう。目立つのは「探究」という語だ。「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変わったのをはじめ、国語科の「古典探究」、地理歴史の「日本史探究」「世界史探究」、新設の理数科の「理数探究基礎」「理数探究」といった「探求的科目」が設けられている。こうした探求的科目は本来、「主体性・多様性・協働性」を養うことにつながるべきものだろう。

探求的科目に関する記述を見ても、多様な他者との協働を求める記述はほとんど見られない。いずれも、課題を設定し、多様な資料を基に考察することを求めているものの、他者との協働はせいぜい、「専門家や関係諸機関などとの円滑な連携・協働」を図ること(日本史探究)、「大学や研究機関、博物館や科学学習センターなどと積極的に連携、協力を図るようにすること」(理数探究)程度である。

◆各高校が主体性を発揮して課題解決を◇

「主体性・多様性・協働性」を養うには、自分たちの中だけで課題について探究するのでなく、社会のホンモノの課題(真正な課題)の解決に向けて多様な他者と協働して活動することが不可欠だ。これまで高校生はほとんど課外の活動でこうした経験をするしかなかったが、今後、教育課程の中で経験することができれば、まさに「主体性・多様性・協働性」を養う教育課程となったはずだ。福祉、防災、観光、交通、広報といった地域の課題を取り上げ、統計的手法を用いたり、アプリ開発をしたり、ビジネスモデルを作って起業したりして課題を解決する活動が、もっと促されるべきではなかったか。

とはいえ、総合的な探究の時間や学校独自設定科目等を活用すれば、学校の裁量でホンモノの課題の解決に向かう授業を設定することは可能である。各高校がそれこそ主体性を発揮して、大胆な教育課程改革を行ってほしい。