(本紙編集局はこう読む 深掘り 教育ニュース)米の個別習熟度別学習

深掘り・小宮山

教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子(リクルート次世代教育研究院院長)

AI利用は具体化へ

米テキサス州オースティンにて、3月5日から8日まで開催されたSXSWedu(サウス・バイ・サウスウエスト・イーディーユー)。2011年に始まった同国内最大の教育カンファレンスで、昨年の参加者は約8千人。今年のトレンドは未来の学びというよりも、明日教室でできる内容のセッションが増加したこと。そしてトランプ政権の影響からかEquity(公平性)の議論や、AI社会を意識したEmployability(職に必要な能力)のセッションが増加したことが特徴だった。

今回は個別習熟度別学習(Personalized Learning、以下PL)と教育領域におけるAI利用について、セッション内容を紹介しつつ考えてみたい。

米国におけるPLの普及現況

“Four State Approaches to Personalized Learning”(「4州におけるPLへのアプローチ」)というセッションでは、テキサス州、マサチューセッツ州、ロードアイランド州、コロラド州の教育担当者が、それぞれのPLの導入現況について発表。例えば、小学4年生と中学2年生の算数・数学で全米トップの成績を誇るマサチューセッツ州では、MAPLE(Massachusetts Personalized Learning Edtech Consortium)という団体が設立され、州内37学区の代表者が参加して、広くPLの普及を促進している。

しかし、まだ途上の段階で、「学区でどのような教育が行われているか」との質問には、同じ内容を同じペースで学ぶという、これまで通りの教育を行っていると答えた学区代表者が70%を超え、完全にPLを行っていると回答したのは約10%だった。

さらなる普及を目指して、MAPLEでは先進的なPLを行う州内の学校の訪問ツアーを組んだり、有識者のコミュニティーをつくったり、ボストン大学教育大学院とイノベーションを起こせる学校のリーダー人材育成を行っている。その他の州も積極的な施策を打ち出していたが、ロードアイランド州の担当者の言葉が印象的だ。「われわれは非伝統的な戦略に基づいて、教育イノベーションを起こしていく必要がある」。

深掘り・小宮山大学におけるAI活用

“How AI is Shaping the Future of Higher Education”(「AIはどのように高等教育の未来を形づくるか」)では、大学におけるAI利用についての事例が紹介された。例えばカリキュラムの選択について。米国で09年秋に4年制の大学に入学した学生のうち、59%が学士学位を取得するのに6年かかっている。

米国の大学は日本とは違い、卒業することが難しい点を考えれば、妥当な数字かもしれない。

一方で、カリキュラムの選択を誤っていて、卒業が長引いているケースもあるのではないか。

そのような議論から、AIに自分の興味関心に合ったカリキュラムを組んでもらい、それを検討することができるような、AIを利用した”Intelligent Course Scheduling”が考えられている。

6年間大学で過ごせることは、ある一定の価値があるとも考えられるが、それだけ学費もかかるということ。米国では大学の学費の高騰が問題になっており、一石を投じそうだ。

チューターシステム

“The Reality of AI in Education”(「教育におけるAIの現実」)という、IBMが登壇したセッションでは、IBM Watsonを利用したチュータリングシステム“Intelligent Tutoring System”についてのデモがあった。

中学1年生の科学の予習において、デバイスで教科書を読んだ後、その理解度をWatsonのチャットボットを利用して確認していくシステムだ。

「地球と月を比べよ」という単元では、さまざまな要素が地球と月のどちらに属するかを選択すると、その場で回答が分かったり、地球と月について知っていることを自由に記述させたり、回答者が答えが分からないと入力すると「大丈夫だよ!」という言葉と共にヒントをくれたり、写真を見せて、True/Falseを答えさせたり。実にあの手この手で学習者のやる気、好奇心を継続させる工夫が凝らされている。

まだ試験段階で、他の教科についても検討されているとのことだが、学校で使われ始めるのは時間の問題だ。

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