安倍総理のための憲法改正か?

深掘り 解説委員 鈴木鈴木 崇弘(城西国際大学大学院教授・日本政策学校代表)

安倍総理の安倍総理による安倍総理のための憲法改正か?

与党自民党は、戦後間もない1955年に結党された。その綱領には、「平和主義、民主主義及び基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり」と記されている。つまり、「現行憲法の自主的改正」は、同党の結党以来の悲願なのだ。だが現実には、国民からの反発や国際的状況などから、実際的に憲法改正へと動きだすことは、ほぼなかった。

■安倍政権の憲法改正

本格的な動きを見せたのは、安倍晋三氏が06年に発足させた第一次政権においてだ。だが同政権は、政権運営の混乱やスキャンダル、総理の体調不良などで約1年で瓦解、憲法改正の動きは止まった。その後、政権交代および政権の再交代などを経て、12年第二次安倍政権が発足すると、安倍総理は憲法改正に向けた動きを再開させた(注)。

安倍政権は、その後さまざまな課題に直面するも克服し、現在党内および国会内に強い反対勢力のない状態にある。

多くの解決すべき問題や課題は山積みだが、昨年の衆院選で安倍政権は自身の支持基盤を盤石にし、近々の政策的課題がないともいえる状態にある。

しかも、最近の森友問題における公文書改ざん問題などが噴出するまでは、秋に予定される自民党の総裁選でも3選をほぼ確実にし、東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年までは、自民党総裁、そして総理にであり続けることが、ほぼ確実であった。

自身が総理として在任する、同年までの憲法改正実現から逆算して、先月の党大会で党の憲法改正案を披瀝(ひれき)し、その後の国会審議、国民投票という流れにつなげようと考えているようだ。メディアなどを通じて知る自民党内の議論を聞く限りでは、不確定要素が高まっているが、安倍総理の改正への意向に沿い、全体の流れがつくられてきている。

もちろん政権やその政策に、その中心である、総理の願望などが反映されるのは悪いことではない。だが憲法は一政権を超えた存在であり、世代を超え、社会全体に影響を及ぼすものだ。その意味で、国民や社会などの、さまざまな所での議論や全体の合意形成が重要であり、慎重なプロセスが望まれる。

■9条改正

憲法改正論議では、いくつかの条項が対象になっている。

特に平和主義を規定する9条の改正で、自衛隊(自衛権)明記の方向。特に、第2項(戦力の不保持・交戦権の否認)を残すか削り、新たな項目の追加で党内議論がなされてきている。

この点における憲法改正は、自衛隊の存在を合違憲の議論の対象から外すことであり、安倍総理は、命を張る自衛官に「尊厳」「誇り」「勇気」を与えることを考えているようだ。

後者に関しては筆者も心情的には理解できるが、最近の世論調査でも自衛隊への信頼はすでに高まっており、それはあくまで情緒的問題で、憲法明記で状況が大きく変わるものではない。

そして政府は本来、従来から自衛隊は合憲と考えているはずで、集団的自衛権に関する法整備はすでになされている。

国民投票で、憲法改正が否決されても成されても、「自衛隊が合憲である(安倍総理の国会発言)」ことは変更がないというように、文言で憲法改正がされても、改正によって内容は変わらないらしい。

それは逆説的に、先の集団的自衛権の法整備がなければ、憲法改正で、集団的自衛権を明確にする意味があったことを示している。

このように考えると、それ以外のさまざまな議論もあるようだが、少なくとも9条に関する憲法改正は、憲法の形式を変えることにだけ意味があるという、奇妙な改正にもなりかねない。

■教育無償化関連改正

今回の憲法改正において、特に本紙読者にとって重要な改正項目がある。それは、第26条および第89条の「教育無償化」に関する条項の改正だ。

前者は、国は個人の経済的理由にかかわらず、教育を受ける権利の確保を含む、教育環境整備への努力義務明記を掲げている。それは現状の義務教育の完全無償化でもないことや、子供の貧困などが起きてきている現状においては、意味があると考える。

後者は、現状の政府の補助金などが教育機関に流れる仕組みは明らかに現憲法違反だが、政府の教育機関への制約や拘束が強まり、危険性をはらんだものになることが危惧される。その意味からも、教育機関の偏重は避けねばならないが、多様な教育から多様な人材が生まれる環境は維持されるべきだろう。

私たちも、今後の憲法改正の論議や動きを注視し、適切な対応を取ることが期待されている。

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(注)安倍総理の憲法改正への執念は、自民党の悲願であるとともに、自身の共感対象かつ同党結党の中心人物であり自主憲法制定論者の祖父の岸信介元総理の影響だといわれている。