(新しい潮流にチャレンジ)協同問題解決能力を高める

eye-catch_1024-768_takashina-challenge教育創造研究センター所長 髙階玲治

安易な相互依存関係を超えて
〇PISAの新しい挑戦

OECDが15歳を対象にした「協同問題解決能力調査」で日本が調査国中2位の成績になったことが昨年11月21日に発表された。しかし、日本の生徒が「協同問題解決能力」において優れている、という判定には疑問を持たざるを得ない。周知のように相互依存傾向の強い日本人の特性は、対立する課題について安易に同調してしまう傾向が指摘されているからである。

相互依存関係のよさは、相互の人間関係の摩擦をなくし、同調的に協力し合う関係を構築するのに都合がよいが、反面安易に同調することで問題解決を曖昧にしてしまう傾向がある。例えば、協同作業を行う場合、相手との意見の衝突を避ける傾向がしばしばみられる。つまり、違いを明確にして対処しようとするのではなく、むしろ違いを表面化させないで同調的に対応する態度が強い。

こうした傾向がそのまま協同問題解決能力として認知されることは極めて疑問である。今回の調査はその意味で極めて注目される。

周知のようにOECDは「キー・コンピテンシー」を提唱しているが、それを3つの枠組みに分けている。(1)社会・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する能力(個人と社会との相互関係)(2)多様な社会グループにおける人間関係形成能力(自己と他者との相互関係)(3)自律的に行動する能力(個人の自律性と主体性)――である。

今回は(2)で、この分野はさらに、(1)他人と円滑に人間関係を構築する力(2)協調する能力(3)利害の対立を御し解決する能力――とされている。調査では「協同問題解決能力」を次のように定義している。

「複数人が、解決に迫るために必要な理解と協力を共有し、解決に至るために必要な知識・スキル・労力を出し合うことによって問題解決しようと試みるプロセスに効果的に取り組むことができる個人の能力である」

さらに、協同問題解決能力の中でも特に「共通理解の構築・維持」「問題解決に対する適切な行動」「チーム組織の構築・維持」を主要な能力としている。

〇質問紙調査に見られる課題

ただ、今回の調査は「他人と協力して問題解決する」という難しい面を持っている。例えば生徒が2人ペアになって問題に取り組んでも相性が悪ければ能力が正しく発揮されるとは限らない。そこで正当に評価するために、だれもが同等の対応ができるように生徒個々がコンピューターで複数の仮想人とチャート形式で会話しながら問題を考える仕組みで行っている(国立教育政策研究所「PISA2015年協同問題解決能力調査―国際結果の概要―」2017)。

調査結果は、1位シンガポール、2位日本、3位香港、4位韓国、5位カナダであった。そこで調査そのものではなく、生徒質問紙をよく読むと、さまざまな課題が浮かび上がってくる。例えば、「異なる意見について考えるのが楽しい」という設問がある。この設問で「イエス」と答えた日本の生徒の数は、調査参加52カ国中最低であった。

他人と協同して問題解決能力が高ければ、異なる意見を無視せず、喜んで受容し、判断し、解決志向を目指すはずである。しかし、「異なる意見」が楽しくないとする判断は、他人の考える多様性に関心がないことを意味するであろう。それが、なぜ問題解決能力の高さにつながるのか。自分にとって都合のよいもののみを選ぶことはあり得ない。このような疑問が生徒質問紙に多様にみられる。そこで、質問紙調査の結果を、日本と調査国平均で示すと表:「生徒の協同に対する態度」のようになる。

これらの調査項目は、調査国平均と比較してみると日本の場合、決して高くなく、むしろ平均以下が多い。特に「他者との関係性への価値付け」はすべて平均以下である。それでいて、なぜ2位の格付けになったのか。

〇協同意識が高まる課題は何か

恐らくは、「他者との関係性への価値付け」や「共同作業への価値付け」にみられる質問項目が高ければ「共同意識が高まる」と判断できると考えられたであろう。また、この調査によって教育指導者が求めるのは、どうすれば「共同意識が高まるか」という具体的な指導方策である。しかし、結果として、よくわからないデータになっている。実は質問紙調査から意外な結果が読み取れるのである。二つ指摘しておきたい。

一つは、それぞれの項目は日本の場合、調査国平均よりも低い傾向が読み取れるのであるが、説明によれば、「異なる意見について考えるのは楽しい」で肯定的な回答をした生徒の方が、否定的に回答した生徒よりも統計的に有意に24点高いとされていることである。「クラスの友達が成功するのを見るのがうれしい」も20点高い。

また、「他者との関係性への価値付け」の項目の多くは、日本だけではなく参加国のほとんどが肯定的な回答の方が得点が高い結果を示しているという。つまり、平均的な意味よりも、個々の生徒の態度が高い得点に結びつくと判断できる。その意味で、これらの質問項目は協同問題解決能力として意味があると考えられる。ただし、平均値でみることはほとんど意味をなさないのである。

しかし、二つ目の問題は異なる傾向がある。「共同作業への価値付け」の問題である。この場合も日本の場合「チームの方が、1人よりいい決定をすると思う」の肯定的な回答をした生徒が統計的に9点高いとされている。しかし、「1人で作業をするより、共同作業が好きだ」は逆に否定的な回答の方が12点高いという。さらに調査国平均で見ると、4項目全てにおいて否定的な回答の生徒の得点が高いとされるのである。特に得点差の大きいのは「共同作業だと、自分の力が発揮できる」で、米国、カナダは否定的な回答者の得点が40点以上高かった。この点を十分注意深く考える必要があると言えそうだ。なぜ、これらの否定的な回答が高得点につながるのか。

共同作業について自立的な「個」として参画する場合の、両者の価値付けをどう考えるかという課題である。共同作業よりも個を優先して考え、なお共同作業に参画するというスタイルと言ってよいであろうか。

この傾向は、わが国の相互依存関係とは異なるのである。米国やカナダは集団よりも個の主体的な判断を優位に考える。そして、個それぞれの優れた考え方を土台にすることで共同作業をより望ましいものに高めていく。その前提としての個の確立である。

わが国もそうした協同問題解決能力の在り方を学ぶ必要があるのではないか。最近、安易に「合意形成」を求める傾向があるが、それは避けるべきであろう。

その意味で、協同問題解決能力についての新たな問題を今回の調査は示してくれたのではないか、と考える。

特にわが国は集団における相互依存関係が強い傾向がみられることから、安易に協同問題解決能力を求めるのではなく、「個」の自立を強固にすることを含めての能力形成を目指すべきでないかと考える。

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