(注目の教育時事を読む)第48回 前文科事務次官・前川氏の授業問題

eye-catch_1024-768_tyumoku-kyoiku_r20180426

藤川大祐千葉大学教育学部教授

お粗末な政府与党のやり方 法的根拠を尊重すべきである

◆公立学校での講演の是非が問われる◇

本紙4月9日付で報じられたように、名古屋市立中学校で前文部科学事務次官の前川喜平氏が行った講演について、文科省が名古屋市教委に問い合わせた問題は、同市教委が文科省に意図を問い、文科省から回答があったことが明らかになった。

この件に関する経緯を確認しておこう。今年2月16日、名古屋市立中学校に前川氏が招かれ、生徒と保護者に向けて講演を行った。3月15日、講演の内容等について文科省が同市教委に対して報告を要請していたことが報じられた。

文科省から同市教委への質問は2回にわたっており、同市教委によって質問と回答の全文が公開されている。

同省から質問がなされた背景には、自民党の議員の働き掛けがあったとのことである。

この件については、そもそも公立中学校が前川氏を招いて生徒や保護者に講演を実施することの是非が問われる。

同市教委から文科省への回答によると、不登校や夜間中学の話であり、生徒たちが「自分の未来や自分の生き方を創っていく参考にしてほしい」という意図があったと説明されている。内容が生徒や保護者に有意義なものであったとしても、前川氏の置かれている状況と無関係に、同氏による講演の実施は適切だと判断できない。

文科省は、前川氏が天下り問題に関与して辞職、停職相当とされた経緯があること、いわゆる出会い系バーに出入りしていたことを問題視している。

同市教委からの回答にもあるように、天下り問題は文科省の組織的問題であり、出会い系バーについても「良心的な目的」であることが報道されているおり、これらの点について調査する必要性を説明することは難しい。

◇問題は前川氏の政治的立場の評価◆

問題は、前川氏の政治的立場の評価である。

同氏が退官後、安倍政権に対して強い批判をしている点を踏まえれば、招くこと自体が政治的に特定の立場を取ることと見なされかねず、公立学校はもっと慎重になるべきであった。前川氏の立場については、異論もあり得ることに留意すべきだが、問題にするのであれば天下り問題や出会い系バーではなく、前川氏の政治的立場であったはずである。

文科省が地方の教育行政に介入するのであれば、法的根拠が必要だ。

今回の記事では、文科省から同市教委への問い合わせの法的根拠として、「地方教育行政法に基づく、指導、助言、援助を行うか判断するために、同法53条に基づいて調査を行った」としている。この説明はお粗末で、法的根拠は最初の同市教委への問い合わせの際に明示されるべきだ。

法的根拠も示さず15項目にもわたる質問に回答を求めれば、「不当な介入」と言われて当然である。

地方教育行政法53条を根拠にすることについては、説明がかなり苦しい。この条文は同法48条1項の権限を行使するために成されたものだというが、48条には2項において指導、助言、援助の例が挙げられており、この中に個別の授業に該当する項目はない。

よって、仮に48条1項の権限を行使するための調査だったとすると、例外的な項目に関する調査だったことになる。

さらに、地方教育行政法53条の調査を行う権限は、文科省という組織でなく文科大臣に付されている。このことから、最初の同市教委への問い合わせは、文部科学大臣名でなされなければならかった。だが、公開されている文書には文科大臣の名は見られない。

◆法令を順守し地方自治を尊重◇

以上より、文科省の同市教委への問い合わせは、その目的についても、問い合わせ主体の名義についても、法的根拠が説明できない。問い合わせをするのであれば、事前に法的根拠を明確にした上で明示すべきであって、そうしたこともできないのは、法に従って業務を行うべき政府官庁としてお粗末である。

また、文科省に問い合わせをさせたのが自民党議員なのであれば、自民党議員ももっと方法を考えるべきだ。名古屋市の学校の取り組みについて直接問うべきなのは、国会議員でも文科省でもなく、名古屋市民であり、市民を代表する名古屋市議会議員である。自民党議員が、同市の議員に事情を聞き、必要があれば同市議会で質問するよう依頼すればよかった。なぜそうした手間を取らずに、文科省に問い合わせたのか、不思議である。

言うまでもなく、政府も与党も、法令を順守し、地方自治を順重しなければならない。それができずに非難を浴びるようでは問題である。改めて法的根拠が尊重されるべきことを確認していただきたい。