(新しい潮流にチャレンジ)第3期教育振興基本計画の課題 超スマート社会に向けた教育展望

eye-catch_1024-768_takashina-challenge教育創造研究センター所長 髙階玲治

 〇教育振興基本計画の意味

3月8日に中教審の「第3期教育振興基本計画について」が答申された。この計画は5年ごとに作成されるが、今回はなぜか反響が極めて少ない。周知のように「教育振興基本計画」は、2006年の教育基本法改正によって生まれたものである。それまでの教育基本法は60年続いたが、いわば「理念法」として考えられてきた。教育に関する「憲法」であって、実際の教育施策は他の法案によって示されるのが普通であった。しかし、新教育基本法は、「理念」を示すのみでなく、教育施策を具体的に示すという新たな条文が加えられることになった。それが第17条の「教育振興基本計画」である。次のように示されている。

「政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。

2、 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない」

つまり、教育振興基本計画は教育基本法の一環として、5年ごとに更新されることになったのである。私は「教育基本法の改正はエポックになった」と書いた。具体的な教育政策への期待があったためである。(高階編著『教育基本法の改正で教育はどう変わるか』ぎょうせい、2007)。

しかし、第1回から具体的な教育計画は難しさを露呈していた。大きな論点になったのが教育政策のための財政的な裏付けである。また、教育行政への影響も大きく、具体的な法案内容の十分な検討が必要であった。そのため、基本計画に盛られた内容はかなり曖昧にならざるを得なかった。それは今回も同様である。

〇教育振興基本計画の成果と課題

教育振興基本計画が脚光を浴びたのは、第2回(2013)である。わが国を取り巻く危機的状況が計画に大きく影響した。例えば、少子化・高齢化、グローバル化の進展、雇用環境の変容、地域社会・家族の変容、格差の再生産・固定化などである。さらに東日本大震災によって、それらが一層顕在化・加速化したといえる。

そうした課題を背景にして、第2期計画は教育行政の4つの基本的方向性を示している。(1)社会を生き抜く力の養成(2)未来への飛躍を実現する人材の養成(3)学びのセーフティーネットの構築(4)絆づくりと活力あるコミュニティーの形成――である。さらに、今後の社会の方向性として、「自立」「協働」「創造」の三つの理念の実現に向けた生涯学習社会を構築するとしている。当時はまた、次期学習指導要領をどう改訂するかという論議と重なる時代でもあった。そのため新指導要領に、基本計画の理念がどう影響するか注目が集まったといえる。

第3回である今回はどうか。5年ごとの基本計画は、単に計画の提示のみであっては、これまで計画がどう実現したかが不明確である。どんな成果がみられたかが重要である。それについて今回は、(1)PISAやTIMSSの学力を維持できた(2)障害のある子供への教育支援計画作成率が向上した(3)学校施設の耐震化の進展――などがみられたとしている。

半ページ程度の説明であって成果の重みをあまり感じないが、ただ今回強調されている事項に「客観的な根拠を重視した教育政策の推進」があって、教育段階の企画・立案段階、実施段階、評価・改善段階の明確化への提言がある。そのため基本計画のスタイルに変わった部分がみられるが、今後はさらに大きく変わる可能性がある。

ただ、教育の課題は次々と変わることはありえない。わが国を取り巻く危機的状況は前回から引き続いている。そこで今回特に取り組むべき新しい課題をみると、「教師の負担」と「高等教育を取り巻く状況変化と課題」である。学校の働き方改革や高大接続・大学改革などが大きなテーマである。

〇超スマート社会の実現を展望した政策課題

今回の基本計画は、すでに実施中の多様な教育政策からあまり変わらないようにみえる。具体的な政策はかなり明らかになっていて、そのため「新しさ」をあまり感じないであろう。

しかし、今回特に強調されているのは「2030年以降の社会を展望した教育政策の重点事項」である。答申の「概要」には、「教育政策の重点事項」に「超スマート社会(Society5.0)の実現に向けた技術革新が進展するなか『人生100年時代』を豊かに生きていくためには、『人づくり革命』、『生産性革命』の一環として、若年期の教育、生涯にわたる学習や能力向上が必要」と述べている。

文中の「超スマート社会(Society5.0)」とは何か。平たく言えば、「人類史上5番目の新しい社会」のことである。最近よく言われているIoTやAIによるビッグデータ活用・自動化などの技術革新が実現する社会である。ちなみに1.0=狩猟社会、2.0=農耕社会、3.0=工業社会、4.0=情報社会である。

基本計画の考え方で言えば、何よりも今後5年間の教育政策が重要であるが、超スマート社会への動きは5年後と言わず、すでに多様な形でその姿を見せている。企業などの先端産業ではIoTやAIの言葉が飛び交っている。それは確実に30年以前から教育政策に影響を与えることは確かである。その展望を確実に把握しながら、なお5年間の現実的な教育政策を明らかにする必要がある。

今後5年間の教育政策の目標と施策は、前回の30項目に比べると、「基本的な方針」を五つの分野に分けて21項目に絞りこんでいる。この21項目の内容が具体的な政策として実施される。

例えば、▽家庭の経済状況や地理的条件への対応として、生活保護世帯、1人親家庭の子供などの進学対応▽持続可能な学校指導体制に必要な教員の週当たりの勤務時間の短縮▽ICTの基盤整備としてパソコンを3クラス中1クラス分の整備――などである。

このような教育政策の実現は財政的な裏付けが必要で、いつもそれがネックになるが、教育基本法を「理念法」から脱却するための「教育振興基本計画」であることから、21項目それぞれについてさらなる具体的で確実な政策を推進してほしいものである。すでにその動きは文科省の組織再編に現れていて、生涯教育政策局が総合教育政策局に組織改編されるという。

教育振興基本政策がより具体的で実効性の高いものに変わることを大いに期待したい。

よい学び方を知りたい子供たち(2)

学びの「自覚」を持つことの大切さ
〇「嫌いから好きへの転換」が学びを変える

最近、日本人の傾向について生産性の低さとともに語られるのは、仕事を指示通りにこなす勤勉性は高いが、自ら主体的に仕事に関与する姿勢が低いとされることである。子供の学習の場合も同様で、受け身に姿勢で知識的な獲得には熱心だが、自ら課題に取り組もうとする意欲も学習方略も低いとされる。

ところで、極めて興味深い子供の学びの姿勢についての調査がみられる。

ベネッセの調査であるが、同じ子供に、勉強の「好き」「嫌い」を1年前(15年7~8月)と1年後(16年7~8月)に尋ねたところ、小・中・高生とも、勉強が「好きから嫌い」「嫌いから好き」になった子供がそれぞれ1割前後見いだされたという。そこで成績の変化との関連を調べたところ、図のような結果が見いだされたという(ベネッセ教育総合研究所『子どもの生活と学びに関する親子調査2015―2016』2017)。

この場合の、成績(自己評価)が上がった子供とは、15年は「成績中位」だったのが16年は「成績上位」になった場合と、15年は「成績下位」だったのが16年は「成績上位」または「成績中位」になった場合の合計だという。

結果として、小・中・高生ともに「嫌いから好き」になった子供が成績を上げている。「好きをキープ」した子供よりも多いのである。興味深いことである(小学校は5、6年生)。

そこで重要な課題になるのが、成績が上がったのであるから、勉強の仕方に違いがみられるようになったのではないか、という点である。この調査は「好きから嫌い」と「嫌いのまま」との比較を行っている。

当然ながら前者の方が高い結果であるが、両者の差異が最も大きかったのは「何が分かっていないか確かめながら勉強する」であった。次いで「テストで間違えた問題をやり直す」も小・高で差異が大きい。「くり返し書いて覚える」は小・中で差異が大きい。

これらは基礎的な学びとしての勉強方法である。いわば理解を確実にする方略と言える。つまり、「嫌いから好き」に変わった子供は自ら学ぶ手法を獲得しはじめたといえる。

〇学びの「自覚」が高くなると「よく学ぶ」

ところで、「嫌いから好き」への転換が学習成績を高めたことの要因は何なのか。「好きのまま」よりも成績が良いことの意味は、自ら学ぶことの「自覚」が高まったことの証明ではないか。

その「自覚」が、「よい学び方を知りたい」という願いと重なるとき、積極的な学びに向かう力の形成になると考える。その基本は何よりも「勉強が楽しい」とする感覚が高くなることではないか。例えば、「嫌いから好き」と「嫌いのまま」との対比で、「授業が楽しい」は前者が後者よりも小18.9ポイント、中17.5ポイント、高13.8ポイント高くなっている。「尊敬できる先生がいる」「学校の先生以外の人の話を聞く」も高くなる。小は「夢中になって時間がたつのを忘れる」が8.7ポイント高かった。「親から仕事の大変さを聞く」も小・高と高い。

ただ、「よい学び方」は容易には子供に伝えられない。子供の学びの方略は、日常の学習・生活習慣や学習意欲などの個別的な態度によって異なるからである。むしろ、子供自身が自ら学ぼうとする「自覚」に支えられることの方が大きいであろう。その点、「嫌いから好き」への転換は大きな意味がある。また、「嫌いのまま」「好きのまま」で過ごすのではなく、「自覚」に向かう姿勢をうながすことが重要である。

その意味で、毎日の授業をどう構成し、展開するか、というカリキュラム・マネジメントは極めて重要で、子供はその影響の下で学び方を学ぶからである。

なお、「現在の学校の授業」についての調査も行っている。「よくあった+ときどきあった」であるが、かっこ内は小・中・高の順(%)である。「グループで調べたり考えたりする」(90.9、85.2、66.6)、「テーマについて討論する」(75.4、67.6、54.7)、「調べたことをグラフや表にまとめる」(66.9、58.8、39.0)、「調べたり考えたりしたことを発表する」(87.3、78.7、57.5)、「観察・実験や調査などで考えを確かめる」(87.2、81.5、51.4)、「学校の先生以外の人の話を聞く」(69.6、64.9、68.9)であった。

なお、「よい学び方を知りたい」という願いは極めて個別的でもある。授業を毎日繰り返してもそれが子供の願う「よい学び方」に必ずしも直結しないことが多い。それは従来の授業が証明している。そこで教師は毎日の授業を展開しながら、「学び方」の指導もまた意図的に行う必要があると言える。

〇「学びに向かう力」の形成に向けて

一般的にも例えば次のような学習態度を身に付けることが必要である。

(1)問題解決の着眼点や視点を持つことができる(2)学習のめあてがわかり、課題解決への見通しを考えることができる(3)課題解決の方向や方法がわかる(4)学習過程の途上で自らの学習を修正し、補充したり、発展させたり、深化させたりできる(5)課題解決の過程を知り、新たな学習や生活に生かすことができる。

さらに細かな学び方を言えば、語の読み、漢字の習得の仕方、話し方などもまた必要不可欠である。子供が身に付けたい基本的な学習とスキルがわかれば、独り学びが可能になる。

それと同様に、例えば問題解決学習の手法もまた、将来の生き方に活用できるものである。

このような学習態度形成が、多くの教科で日常的に実施されれば、積極的に課題に取り組む子供がその手法を身に付けることが可能になる。情報活用能力もまた同様である。

さらに「多様性を尊重する態度と互いの良さを生かして協働する力」の育成は、「対話的な学習」を繰り返すことで可能である。「よい学び方」の獲得は子供個々の学習したいという「自覚」に基づくことが重要である。