教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子 (リクルート次世代教育研究院院長)
今月初旬、米カリフォルニア州サンタクララにて開催されたAugmented World Expo USA 2018に参加した。今年で9回目となる全米最大級のAR/VR/MR(これらの総称がXR)に関するイベントで、約1万6千人が参加。テレポーテーションを使った基調講演から始まり、手品を見ているようなセッションも多く、未来を感じることができた。
1968年にAR/VRが登場してから今年で50年。XRは来年にかけてそのユーザー数は10億人に達すると言われている。既にXRが普及しつつある産業もあり、その動きは今後教育にも広がると考えられる。XRがどのように使われ、これからの教育では何が重要となってくるのか考察してみたい。
■XRを使った学び
今回のイベントで印象的だったのは、Qualcomm社が紹介していた未来の学びだ。これからは全身のトラッキングができるようになるため、全身が没入した学びが可能になるという。

例えばエジプト古代史を学ぶ際に、現状では、机上のタブレットを利用して動画を見ながらピラミッドとは何かを理解する。それに加えて一部の先進的な学校では、目、頭、手のトラッキングを利用して、机上ではなくもっと広い空間を使って学ぶことが可能になっている。3Dオーディオや4Kグラフィックも使われているので、より実物に近いものを体験できる。
その次の段階がどうなるかといえば全身のトラッキングが可能になるため、ピラミッドの中を友人たちと歩きながら学ぶことができるとされている。
日本では5Gが来年市場に出て来ることが予想される。5Gのメリットは速さ、容量の大きさと反応速度の速さだ。5Gの登場はXRを使った学びを加速させるだろう。
■Storytellingの重要性
XRが浸透することで、より表現方法が多様になることが考えられる。そうなった時に今よりも重要になってくるのがStorytelling、「物語」だ。
例えば何かについてプレゼンする際に、数字などのデータを用いたものは内容として説得力を増すが、聴衆の心に響くかと言われればそれには「物語」が必要と言われている。伝えたい思いや内容について、それを想起させるような印象的なエピソードや体験談などの物語を引用し、聴衆の記憶に残るようにする。人間の脳は、物語の形式で知恵として記憶を蓄積していくと考えられている。
今回のイベントでも、ピクサーで『トイ・ストーリー』などの製作に携わってきたジェイソン・カッツ氏が登壇し、同社がどのように物語を製作してきたかを話した。
彼によれば、「良い物語」とは主人公が誠実で、何かを乗り越えるために頑張っていること、そしてそこに「始め・半ば・終わり」という構成があることだと言う。それに加えて、Who(誰についての物語なのか)、When/Where(いつ、どこで)、What(何についての物語なのか)、Why(なぜ◯◯するのか、例えば旅に出るのはなぜか――など)、How(どのようにして達成していくのか)の順番で物語を考えていくことが大切と説く。
■XRの教育利用上の課題
現状3点あると考えている。第一に、デバイスを利用することによる斜視の可能性だ。多くのXRが13歳以上の利用を推奨しているが、それは斜視になる可能性があるからと言われている。
ただ、本イベントで登壇していたスタンフォード大学小児病院の先生と話をした際、「時々1日20分以内の利用なら問題ない」とのことだった。実際、同病院ではXRを使ったプログラム(Childhood Anxiety Reduction through Innovation and Technology)を実施している。手術前の子供たちの精神的なケアにXRを利用するというものだ。6歳や8歳といった子供たちにもそのプログラムは実施されていて、効果があるという。
課題の第二は、デバイスが高価であることだ。現状、安くてもOculusのヘッドセットで200ドル(約2万円)。年々安くはなっているが、学校での利用はまだ先になりそうだ。
最後の課題として、コンテンツの少なさが挙げられる。例えばコンソールゲーム(PlayStationやSwitchなど)は長時間行う人がいるが、XRはそれがない。コンテンツの少なさが主な理由だ。200ドルをコンソールゲームに費やすのか、XRに費やすのか考えた場合、まだまだ前者に費やす人が多い。良質なコンテンツが増えることが重要になってくる。