(注目の教育時事を読む)第50回 地震被害と学校安全

eye-catch_1024-768_tyumoku-kyoiku_r20180426藤川大祐千葉大学教育学部教授の視点

学校安全と危機管理を考える あらためてリスク対応の前進を
◆安全であるべき学校で子供の命が◇

紙面の記事を取り上げるのでなく、6月18日に大阪府北部で発生した地震被害を受け、学校安全と危機管理を論じさせていただく。

今回は大阪の都市部で大きな被害が出ており、6月22日現在、死者5人、負傷者400人以上と報じられている。建物の崩壊もあり、避難生活を余儀なくされている人も多い。ガスなどのライフライン復旧に時間がかかっている地域もある。被害に遭われた方々に謹んでお見舞い申し上げたい。

今回、広く注目されたのは、死者5人のうち1人が、学校のブロック塀の下敷きになって亡くなった小学生であったことにある。高槻市立の小学校のプール外壁のブロック塀が通学路側に倒れた。

地震による被害であるとはいえ、本来安全であるべき学校の設備が崩れて児童の命が失われた意味は大きい。

その後の報道で、当該のブロック塀が危険であることは、2015年11月に当該校で防災教室の講師を務めた防災アドバイザーの吉田亮一さんが校長や教頭に伝えており、その1カ月後には報告書を作成して学校側にメールで送っているという。

16年2月には当該校の校長が市教委にブロック塀の点検を依頼し、市教委の職員が棒でたたく検査を行ったとのことである。職員はブロック塀の高さが法令(建築基準法施行令)の基準を超えているという認識がないまま、傾きやひび割れがないことをもって「安全性に問題はない」と判断した。

◇法令への無理解が学校のリスクに◆

専門家から指摘があり、学校から点検の依頼があったにもかかわらず、市教委が法令に基づいた対応ができなかったことは深刻な問題である。公務員が法令に基づいて業務を行うことは全ての前提である。いじめ問題への対応が、いじめ防止対策推進法に沿わずになされることがある点も含め、教委の業務が法令に基づいたものであるとは言えなくなっているのではないか。今回の事故は、教委職員の法令に対する無理解が学校教育にとって深刻なリスクであることを示している。適切に法令を確認して業務を行えるよう、法令に明るい職員を教委に配置する、教委職員が首長部局の法務担当者と密接に連絡が取れるようにする、といった対応が求められる。

他方、今回の地震においては、これまでの地震被害の教訓が生かされたことにも注目しておく必要がある。1995年の阪神淡路大震災では、火災で6千棟以上が全半焼したが、今回は火災の被害は限定的である。家財道具の下敷きになって亡くなった人も出てしまったものの、過去の震災と比較すれば少なかった。関西地区ゆえに阪神淡路大震災の経験が生かされていたであろう点も含め、リスク軽減が効果的になされていたのを見過ごしてはならない。

火災や家財道具の対策は進んだのに、なぜブロック塀対策は遅れてしまったのか。過去の地震でもブロック塀倒壊による被害は問題になっている。特に、1978年の宮城県沖地震では、犠牲者28人のうち18人が塀の下敷きになって亡くなっている。これを受け、建築基準法が改正された経緯がある。その後も同様に死者は出ており、最近では熊本地震でも下敷きになった犠牲者の遺族らが塀の所有者に賠償請求を行っている。非常に数の多いブロック塀を点検し、必要な補修をするには多大なコストがかかる。そうまでして対応するには至らなかったということであろうか。

あるいは、過去の地震被害では、多くの犠牲者の中で、塀の下敷きになって亡くなった人が人災に当たると考えられなかったということなのか。

◆設備点検や法令順守ができる体制を作る◇

戦後70余年の範囲でみれば、日本社会は災害で亡くなる人の数をかなり減らしてきた。1960年ごろまでは、伊勢湾台風、福井地震、枕崎台風、三河地震など一度に千人以上が亡くなる災害が頻繁に発生していた。60年以降、千人以上の死者を出した災害は、阪神淡路大震災と東日本大震災のみだ。交通事故死や殺人なども大きく減少しており、医療の進歩もあって、社会は人命を大切にする社会となってきたはずだ。

しかし、このところは、今回の大阪北部地震のような事故のほかに、幼い子供が被害に遭う虐待、通り魔的犯罪などの事件が目立つ。こうした事件の絶対数は多いとは言えないが、あらためて子供の命のリスクをもう一段階軽減することが求められていると考えるべきなのかもしれない。

学校教育に関しても、学校設備の点検や法令順守できる体制の整備を中心に、子供の命を脅かすリスクを一段階軽減する策を検討する必要がある。