超教育協会が発足 AIの教育利用を国家戦略に

深掘り・小宮山教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子 (リクルート次世代教育研究院院長)

今年5月29日、「新たな学び」を掲げ、超教育協会の設立記念シンポジウムが慶應義義塾大学三田キャンパスで開催された。会長は元東京大学総長で、三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏。AI、ビッグデータ、ブロックチェーンといった先端技術の教育への導入や、テクノロジーと教育に関する研究、啓発、政策提言などを進め、未就学児からシニアまで、全ての学習者を主体とした新たな学びをデザインする目的で設立された。

背景には、「従来の学校における、あらゆる垣根を越えて、これからの教育は取り組む必要がある」という覚悟がある。

私も上席研究員および教育×AIワーキンググループのリーダーとして、微力ながら同協会において活動させていただくことになった。今回は、AI関連において日本が置かれている状況と、7月23日に開催した第1回公開ワーキンググループの模様をお伝えする。

■AI競争から取り残される日本

今年2月に米科学財団が発表した“Science and Engineering Indicators 2018”。世界各国の科学技術がどのくらい進んでいるかを示す調査で、研究開発費や論文数を見ると、米国と中国が圧倒的な地位を築いている。特に論文数については2016年の時点で、米国よりも中国が数で勝り、両者の順位が逆転した。日本でも大きな話題となったので、覚えている人もいるだろう。

さらに私が注目しているのは、科学技術分野の学士号取得者数の推移だ。02年ごろから中国における取得者数が急増し、16年は約160万人が取得している。

一方、日本では02年からその数はほとんど変わらず、40万人に届かない。もちろん人口数が異なるため単純な比較はできないが、それでも日本でほとんど取得者数に変化がないのは、懸念される点である。

中国のこの勢いは止まりそうもない。17年7月に最高国家行政機関である中国国務院が、30年までに同国をAI開発の分野における世界の中心地に育てると宣言し、AIを使った教育を国家戦略に位置付けると発表した。

政府の教育部は、地方の子供たちもAIを用いた教育を享受できるようにと、地方自治体に対して年間の教育関係予算の8%以上を教育のデジタル化に費やすよう要求している。中国政府は既に16年の時点で、約5兆1500億円をこの分野に投資していることからも、本気度がうかがえる。

■日本がこれからできること

7月23日のワーキンググループ第1回会合では、東京学芸大学副学長・松田恵示氏、株式会社エクサウィザーズ・遠藤太一郎氏、そして私が短時間のプレゼンをし、教育×AIの現況と課題、今後の進め方についてメンバー間で討議した。

私からは海外における事例を共有し、松田副学長からは学芸大学における取り組みが紹介された。そして遠藤氏からは、5教科以外の部分での導入の可能性について話があった。

AIが教育で利用されているシーンとしては、現状Personalized Learning(個別習熟度別学習)を行うことによる、学びの効率化に焦点が当たっていた。確かに米国でも50州の内39州で、Every Student Succeeds Actという連邦法に基づきPLが導入されており、チャータースクールなど私立も考慮すれば、全州で行っているといっても過言ではない。

ただそれだけではなく、例えばより学びやすいカリキュラムの編成や、画像、音声を用いた新しい学びも出現するだろう。リクルートでは、算数・数学や英語などの積み上げ型の教科を学習する際、既存のハシゴ型カリキュラムが果たして最良なのかといった研究を、東京大学の松尾豊研究室と行っている。

教材を自然言語処理化し、単元同士の「近さ」を3次元で表すことで、つまずく子供を予防できないかと考えている。まだ実証段階で実装はできていないが、今後このような議論は多くなると考えている。

また米国では、4年制大学に通う学生の59%が6年かけて卒業するという実態がある。2年間分の学費を余計に払っていることになり、高額な学費が問題となっている。米国ではその改善が喫緊の課題だ。留年しないように、AIが取るべき授業を学生にレコメンドするということも一部で行われている。

ワーキンググループは今後何度もミーティングを重ね、AIが教育に導入できる領域を俯瞰(ふかん)し、導入する際に現時点で何が課題になっているのかを整理する。年度末に政府へ提言したいと考えている。

日本も教育におけるAI利用を、国家戦略として考えるべきではないか。