(注目の教育時事を読む)「特別の教科 道徳」といじめ

eye-catch_1024-768_tyumoku-kyoiku_r20180426藤川大祐千葉大学教育学部教授の視点

少数派視点で考えさせる教材を 具体的な実践の蓄積不足を補う
◆いじめ防止に寄与、とは考えにくい◇

今回も紙面の記事を直接取り上げるのでなく、「特別の教科 道徳」(以下、「道徳科」)といじめについて書かせていただく。

道徳の教科化は、2013年、いじめ問題への対応として教育再生実行会議で提言されたものであり、文科省も道徳を教科化し「考え、議論する道徳」へと転換することがいじめの問題に正面から向き合うものであるという立場をとっている。だから、道徳科はいじめ防止に大いに貢献するものとなっていなければならない。

だが、私の著書『道徳教育は「いじめ」をなくせるのか』(NHK出版)で詳しく述べたように、現状は厳しく、道徳科がいじめ防止に寄与しているとは考えにくい。以下にポイントを述べよう。

第一に、道徳科について検討がなされ、学習指導要領が一部改訂となる経緯の中で、道徳科といじめとの関連は全く詰められていない。象徴的なのは、道徳科の学習指導要領には、「いじめ」の文字は一度も登場しないのである。道徳科の内容は従来の特設道徳の時間と大差なく、文科省が言うような「考え、議論する道徳」への転換によっていじめと向き合うという筋道を読み取ることはできない。

第二に、教科書が作られたものの、学習指導要領を反映して、「考え、議論する道徳」への転換によっていじめと向き合うという内容にはなっていない。読んで理解するだけでも15分も20分もかかるような長文の教材が多く、子供たちが深く考えたり議論したりする時間の確保が困難だ。「主たる教材」であるはずの教科書が、「考え、議論する道徳」にも、いじめ防止にも向き合うものとなっているとは言い難い状況だ。

◇少数者に苦痛を与えるリスクが◆

第三に、いじめ防止の観点からは、いじめ被害に遭うリスクが高い少数者への配慮が重要と思われるが、学習指導要領も教科書も配慮が弱く、少数者に苦痛を与えるリスクが高いと言わざるを得ない。

具体的には、友人と同調することに抵抗がある者、人との関わりが苦手な者、家族から虐待されていたり家族との関係で悩んでいたりする者、自分の性に違和感を覚えている者、外国にルーツを持つ者などへの配慮なしに、友人を大切に、思いやりを持て、家族を敬愛せよ、男女が互いに尊重せよ、日本人であることに誇りを――といった、定型化されたメッセージが発せられている。

教育再生実行会議で議論されていたように、従来の特設道徳は形骸化されやすく、いじめ防止に寄与しているとは言えなかった。だが、意地悪く言えば、期待している人は少なかったので、形骸化してもそれで困る人はあまりいなかったと思われる。むしろ、いじめ防止への貢献の道筋が不明なままで道徳科が始まってしまい、教科書や評価に拘束されて、少数派を傷つけるような授業が熱心に行われるようになれば、いじめ防止との関係では道徳科はマイナスでしかないことになる。

今年4月23日に放送されたNHK「クローズアップ現代+」は、道徳科がともすると子供を傷つけ、いじめを助長しかねないことを象徴的に示している。道徳の教科化をテーマとしたこの番組では、小学校4年生のクラスで教科書教材「お母さんのせいきゅう書」を取り上げた授業が紹介されている。「家族愛」を扱うこの教材で、担任教師は母の子供への無償の愛を考えさせようとするが、担任の意に反する意見を出す児童が出てくる。

それでも担任は予定した結論に導こうと授業を進め、児童は黙ってしまう。学習指導要領が一般的な価値を掲げ、教科書がその価値に導くように作られている以上、教師がよほど工夫しなければ、教科書の想定と異なる考えを持つ子供は黙らされ、傷つけられることとなりかねない。これでは道徳科はいじめ防止に寄与するどころか、少数派を排除しようとするいじめを助長してしまう。

◆「考え、議論する道徳」への具体策は見えない◇

道徳の教科化によって道徳教育を「考え、議論する道徳」へと転換し、いじめ防止に寄与できるものにする。文科省が考える道筋自体が間違っていると言うつもりはない。だが、残念ながら学習指導要領も教科書も従来の特設道徳の項目や教材を継承しているだけで、「考え、議論する道徳」をどのようにして実現し、どのようにしていじめ防止につなげるかという具体策は見えない。

道徳の教科化は拙速であったため、具体的な実践の蓄積が決定的に不足している。いじめ防止の観点からも急務なのは、排除されがちな少数派の観点から問題を描き、考えることを促す教材である。微力ながら、私は『みんなで道トーク!』シリーズ(河出書房新社)などの教材をつくり、『道徳授業の迷宮―ゲーミフィケーションで脱出せよ―』(学事出版)などで方向性を検討している。
こうした提案が、学校現場に届くことを願っている。