制定から5年 いじめ防止対策推進法を再考する

深掘り 解説委員 鈴木

教育新聞特任解説委員 鈴木 崇弘(城西国際大学大学院教授・日本政策学校代表)

いじめ防止対策推進法は、2011年の滋賀県大津市のいじめによる自殺事件をきっかけに、その防止対策として制定された。

同法の重要な点は、学校内においていじめの防止組織をつくり、情報共有を図り、従来は担任などの個人教員に任せられていた対応が、組織対応をとるように方向転換されたことだ。

同組織には、心理や福祉の専門家、弁護士、教員・警察経験者ら外部専門家の参加・対応が可能だが、重大事態が起き、調査委員会の立ち上げ後に外部専門家が参加することが多いという問題が、同法施行3年後実施のレビューでも指摘されている(注1)。

■専門家の活用強化の必要性

このように、同法にはいくつかの問題と課題が考えられる。

個人教員対応から組織対応に方向転換したことは評価できるが、まず、教員や学校そのものはいじめや人権の問題などを専門とする人材や施設ではなく、現在の学校教育では何でも個々の教員に負担させることが多い現実がある。

国も地域も財政的に厳しい面があるが、重大事態が起きずとも日常的に外部の専門家が、この問題に有効かつ効果的に関わり、専門家でない個々の教員の負担を解消できるような、コストセービングな仕組みづくりが必要であると考えられる。教員の負担も減り、教育の質の向上や学校の機能強化にもつながるであろう。

■いじめ実態への対応の必要性

文科省が2017年10月26日に発表した問題行動調査(注2)によれば、全国の小・中・高校および特別支援学校で16年度におきたいじめ認知は、前年度より9万8676件、44%増加(注3)し、過去最多の32万3808件に達した。

これは、いじめの増加とも考えられるが、いじめ認知に対する姿勢・対応が学校現場に広がり、早期発見が行われるようになったからとの指摘もある。つまり同法施行で、何らかの効果が生まれてきているといえよう。

同法は被害者と加害者を二項対立的視点でみている。だが実態は、「いじめは年によって増減傾向はなく、どの年も似たような経験率が示された。加害者と被害者は入れ替わり、全体の8割を超える子供が3年間のうち何らかの『被害体験』を、同じ全体の8割以上の子供が『加害体験』をもつという事実である。

つまり、『一部の特定の子どもが被害者になる、加害者になる』という想定は誤りであることが判明」(注4)している。いじめ問題には、よりきめ細かな対応が必要なのだ。

■子供中心視点の必要性

同法の意義は大きい。だが、いじめ対策としての道徳教育の充実をうたうなど、違和感というか、欠落した視点があることを感じざるを得ない。それは同法が、上からの視点中心で、当事者の子供の意見や視点が、生かされていないからだ。

筆者は以前に、学校「裏」サイトに関して海外の事例も調査した。欧米では当該問題の解決に子供の視点を生かしていて、驚くとともに、非常に納得した記憶がある(注5)。いじめ問題でも、当事者の子供の視点を生かすべきだと考える。

■最後に

同法は、間もなく施行5年を迎えるが、その間に生じた問題と課題、そして本記事でも言及した新たなる視点や観点も踏まえて、さらに有効な施策として進化していくことを願っている。

◇  ◇  ◇

(注1)同法には、施行後3年をめどに、見直しを検討する旨の附則があり、文科省防止対策協議会が2016年11月に、「いじめ防止対策推進法の施行状況に関する議論のとりまとめ」を公表している。

(注2)日本経済新聞17年10月26日(電子版)参照。

(注3)特に小学校で前年度より57%増加し、全体の7割を占め、23万7921件に達した。

(注4)いじめ防止対策推進法の問題点」(石井小夜子「相談室だより2013」)参照。

(注5)『学校「裏」サイト対策Q&A…子どもを守るために』(東京書籍、2011年)参照。