(新しい潮流にチャレンジ)2030年 学校はどう変わるか

eye-catch_1024-768_takashina-challenge教育創造研究センター所長 髙階玲治

Society 5.0に向けた教育課題

〇Society 5.0の社会はどう変わるか

文科省は6月5日に『Society 5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~』を公表。2030年に向けた教育構想を掲げていたことで、その教育の方向性を明確化させたと言える。Society 5.0とは新たな社会構造を指す言葉。1.0は狩猟社会、2.0は農耕社会、3.0は工業社会、4.0は情報社会である。かつてトフラーは『第三の波』として情報社会をいい、ドラッカーは知識基盤社会の到来を語ったが、5.0はさらに超えた社会である。

新たな社会の出現は全社会構造を変化させる。教育はその変化への対応の一環であって、何よりも企業などの反応は速い。国際的な競争の渦中にある企業は、時代の先端をいく革新的な動きのいち早い導入が必要だ。恐らくは潜在的な激しい動きが繰り返されているであろう。日本経済団体連合会(経団連)は昨年2月に『Society 5.0実現による日本再興~未来社会創造に向けた行動計画~』を発表している。経団連は社会の動きについて、4.0がコンピューターの発明などで情報流通が始まった情報社会であるのに対して、5.0はIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)が活用され、バイオテクノロジーが進化する社会だという。「超スマート社会」と言われ、産業構造の変化などにどう対応するか難しい課題が山積している。

当然ながらSociety 5.0は国家的課題である。内閣府の関心も高い。情報社会と超スマート社会とでは、そこに明確な差異があるのかについて、内閣府は、これまでの情報社会は知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分だったという問題がみられたと説明する。

超スマート社会では、例えばIoTで全てのモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すという。また、AIにより、必要な情報が必要なときに提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などが克服されるという。

内閣府は次のように説明している。「①サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることにより②地域、年齢、性別、言語等による格差なく、多様なニーズ、潜在的なニーズにきめ細かに対応したモノやサービスを提供することで経済的発展と社会的課題の解決を両立し③人々が快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができる、人間中心の社会」(内閣府 総合科学技術・イノベーション会議)。

このサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合されることの意味であるが、次のようなことではないか。

超スマート社会では、「今までになかったものが出現し社会に役立つ」ことがしばしば表れる。そのため、未来社会の手がかりは、過去のパターン、現在変化が起きている事例、そしてサイエンス・フィクション(SF)が描く「想像上の未来」のなかに潜んでいるという。それはイギリスの『エコノミスト』が予測しているようなことではないか。

その例として『エコノミスト』が真っ先にあげていたエピソードは、今世紀初頭ガラケーに群がる日本の女子高校生である。そこに注目し、それがヒントで世界中に広がると予測したことであるという。つまり、今までにない「想像上の未来」が新たな世界を創り出す。例えば、心地よい睡眠を管理できる寝室の開発や、必要な食材を与えると望む料理が出来上がる機器が出現するなど、従来と異なる生活の転換が可能になる。
『エコノミスト』は次のように言う。「農業革命の影響が完全に社会に及ぶまでには1千年、産業革命の場合は数百年かかったが、デジタル革命はわずか数十年である。われわれが不意打ちを食らって混乱しているのも無理はない」(英「エコノミスト」編集部『2050年の技術』文藝春秋社2017)。だが、教育の世界はどうであろうか。

〇Society 5.0に求められる人材

文科省の構想の基本はSociety 5.0における「人材育成」である。超スマート社会はそれを支える新たなビジネスを造り出す人材が必要である。

その能力は特殊なものではなく、いつの時代にも変わらない基盤となる力であって、「知識・技能、思考力・判断力・表現力をベースにして、言葉や文化、時間や場所を超えながらも自己の主体性を軸にした学びに向かう一人一人の能力や人間性が問われることになる」という。その共通して求められる力として三つあげている。①文章や情報を正確に読み解き、対話する力②科学的に思考・吟味する力③価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心、探究力――である。

さらに、新たな社会をけん引する人材として、①技術革新や価値創造の源となる飛躍知を発見・創造する人材②技術革新と社会課題をつなげ、プラットフォームを創造する人材③さまざまな分野でAIやデータの力を最大限活用し展開できる人材――などをあげている。

社会的にはAI技術の進歩によって、定型的業務や数値的に表現可能な業務は代替されるであろう。しかし、わが国の大きな課題はAIなどの研究開発における人材が極めて不足していることだという。

その結果として学校教育の在り方も大きく変わる。人材育成が急務である。そこでAIなどの先端技術が学校に導入されるが、それは新たな学習展開になる。個々の学習状況などを学習記録としてポートフォリオにし、それを電子化で蓄積する。素早い操作が可能であるから、指導と評価の一体化に役立てられるし、子供も自ら活用できるようになる。また、子供個々の学習状況がよくわかるために、レベルに応じた教材提供や学習環境への適合を可能にする。

AI技術などの導入は二つの意味があり、一つは子供の学習改善に役立てること、一つは教師の指導改善に役立てること、である。この両者が今後大きく進化するのではないか。

〇Society 5.0は教師の役割をどう変える

超スマート社会の実現によって教師の役割はどう変わるであろうか。文科省は三つのモデルを述べている。

①一斉一律の授業形態から、読解力など基盤的な学力を確実に習得させながら、個人の進度や能力、関心などに応じた学びへの転換がおきる。

②同一学年集団の学習から、その形態に加えて、学習到達度や学習課題等に応じた異年齢・異学年集団での協働学習の拡大が行われる。

③学校の教室での学習から、大学、研究機関、企業、NPO、教育文化スポーツ施設などを活用した多様な学習プログラムが開発される。

このような学校教育の姿は、一方ではデジタル教科書、デジタル教材などの新たな教育機器の導入が必要であるだけでなく、地域の多様な教育資源などの学習システム化が必要である。そうした学校変化に対応できる教員や組織化もまた必要になる。だが、果たしてその実現は近未来において、どこまで可能であろうか。実のところ、学校教育の変化はこれまで遅々として進まなかった。OECDの文献をみても、世界的に教育の革新は遅れがちである。今回の文科省の懇談会での、例えば次のような発言に注目したい。

「教育者を自動化することはできず、むしろ需要は増えるであろう。MOOCsやロボットの活用は進むだろうが、教育は人と人との対話で、アルゴリズムが最も不得意とすること。今後、生徒のこれまでの人生や他生徒との関係性といったさまざまなデータを理解し、教育を個別化していくことが重要になる」。なお、MOOCsとは、オンラインによる受講のことである。

恐らくは、2030年代に至る過程において新たな教育的試行がさまざまに行われると考える。それは文科省の動きのみでなく、企業などが積極的に立ち上がると予測できる。すでに、経済産業省がEdTechという新たな教育プログラムの開発として「未来の教室」実証事業を進めている(本紙8月6日)。その実際的な授業をNHKのニュースでも流していた。

このような動きが未来の学校を変えていくことは確かである。Society 5.0によって教育がどう変わるか。まさに「社会が変わる」ことの影響は確実であって、そこに学校や教師の在り方もまた変わるという現実を今から見据えていく必要があると考える。