(注目の教育時事を読む)第53回 いじめ防止対策推進法制定・施行5年

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藤川大祐千葉大学教育学部教授の視点

国の対策協議会の充実を 実践的な課題への対応求め

◇苦痛を受けている状況の把握を◆

2013年にいじめ防止対策推進法が制定、施行され、今年9月で施行から丸5年となった。8月2日付の本紙電子版でも、同法を再考する記事が掲載されている。学校や地方自治体に組織的・計画的ないじめ防止対策を促したこの法律が果たしている役割は大きいものの、さまざまな課題が残る。この5年間の状況を踏まえ、いじめ防止対策推進法に基づくいじめ防止体制の課題を検討していこう。

まず、いじめの定義に関する課題を指摘したい。いじめ防止対策推進法は「いじめ」を「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的または物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義する。日常的には、いじめというと、力の強い者が弱い者に対して、意図的かつ継続的に苦痛を与える行為だと理解されやすい。

だが、いじめ防止対策推進法の定義では、子供たちの力関係も、意図の有無も、継続性の有無も問題にならない。ある子供の行為で他の子供(もちろん一定の関係にある子供も)が苦痛を感じたと認められれば、当該行為はいじめとみなされなければならないのである。たとえその行為が善意からなされたものであっても、相手が苦痛を感じたらいじめとなる。

法の趣旨としては、このようにいじめの定義を広くとって、子供たちが苦痛を受けている状況を徹底的に把握し、いじめの深刻化を防ごうということなのだと考えられる。意図も感じられず継続性もないような行為を、「いじめ」とラベリングして対応することに、ちゅうちょする人は多いだろう。

実際、学校や教委、あるいは調査委員会が、いじめ防止対策推進法による「いじめ」の定義に従わない事例は多い。苦痛を感じた状況を広く把握することには意味があるが、「いじめ」というラベルを付けるのはすぐに解決できない可能性がある場合に限定すべきではないか。

◆対応のスピード感に大きな課題◇

もう一点、いじめ対応のスピード感について、課題を指摘したい。

いじめ防止対策推進法は、いじめがなされていると考えられる際の対応や重大事態が生じた際の対応について「速やかに」行うべきことを規定しているものの、具体的な期限を設けてはおらず、対応のスピード感が曖昧である。

児童生徒や保護者がいじめ被害を訴えても学校がなかなか事実確認をしなかったり、重大事態の要件が満たされているのに認定が数カ月後、調査開始がさらにその数カ月後になったり、などという状況が生じている。当然ながら、いじめへの対応はもっと迅速になされる必要がある。

目安としては、いじめについての事実確認は、できればその日のうち、遅くとも翌日には、校長のリーダーシップの下でなされるべきだ。

児童生徒が苦痛を訴えているのか、訴えている場合にそれは他の児童生徒の行為によるものなのかを確認するのに、何日もかける必要はない。1日以内に最低限の事実確認を行い、すぐに必要な対応をとるべきである。

そうでなければ、児童生徒はいじめ被害を訴えても無駄だと考えて学校に絶望し、長期の不登校につながる可能性がかなり大きくなると考えられる。

重大事態認定については、要件を満たすと同時に校長から教委等の設置者に報告がなされ、設置者はその日のうちに認定し、数日中に学校もしくは調査委員会による重大事態としての調査が始められるべきである。被害者が苦しんでいる場合は対応が遅れるほど事態は深刻になる。

仮に被害者が亡くなっていても、関係者の記憶が新しいうちに調査しなければ経緯を正確に把握することが困難になる。

いじめ防止対策推進法の「速やかに」という表現は、具体的な期限を示すように改められるべきである。このように期限を設けることは、教委が設置する調査組織の在り方にも関わる。組織を常設するなど重大事態発生に備えておかなければ、迅速に調査をすることはできない。常設の組織の設置を義務付けることも検討されるべきだ。

◇国レベルの組織の充実を図る◆

本来、いじめ防止対策推進法施行後、文科省がいじめ防止基本方針を定め、地域や学校とやりとりをしながら国レベルで防止対策の充実がなされるべきであった。

そうした役割は文科省に設置されたいじめ防止対策協議会が担うと考えられるが、この会議は年2回程度しか開かれず、本稿で論じたような実践的な課題に対応できているとは言い難い。

いじめ防止対策推進法に基づくいじめ防止対策の実効性を高めるのに、いじめ防止対策協議会が積極的に課題に向き合える組織となることを強く求めたい。