現役教員の提訴が投げかけたもの 教員の時間外労働の性格

妹尾写真教育新聞特任解説委員 妹尾昌俊(教育研究家、中教審委員)

■現役教師が提訴

本紙(9月26日付電子版、紙面10月4日号)が報じているように、時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして、埼玉県の市立小学校に勤務する男性教諭(59)が9月25日、県を提訴した。来年3月に定年退職となる教諭は「全国の先生が無賃労働を強いられている。次の世代に引き継いではいけない」と話している。

この動きについては、全国各地の公立学校教師から「よくやってくれた」「定額働かせ放題は許せない」という共感、応援する声も(少なくとも、私の元にも)多く聞こえてくる。

■争点は、残業が教師の自発的な業務と言えないかどうか

この裁判で問題となっているのは、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)と、それに関連する法制度である。訴状を基に原告の主張のポイントをざっくり整理する。

次の5点に注目したい。

(a)給特法は時間外労働を、「超勤4項目」に該当し、「臨時又は緊急にやむを得ない必要」があるときに限定して認めている。

(b)「超勤4項目」などに該当しない業務に関して、時間外労働が命じられた場合についてまで、労基法第37条(時間外手当の支給)の適用が除外されることを、給特法が予定しているとはいえない(このような時間外労働については、給特法は何も規定していない)。

(c)しかし、現実には、原告は超勤4項目以外の業務を多数行わざるを得ず、恒常的な時間外労働を余儀なくされている。登校・下校指導、あいさつ運動、各種行事の準備、備品の購入、出席簿の記入、テストの採点、児童の評価などである。

(d)上記(c)の時間外労働は、教師が自主的・自発的に行っているものとは言えず、校長の命令、指導の下である。

(e)「超勤4項目」以外で強いられた時間外勤務については、「教職調整額」とは別に、適正な時間外労働手当が支払われるべきである。

まず、(a)は事実である。(c)もおそらく事実である。正規の勤務時間の中でもさまざまな業務を行っているが、それだけでは終わりきらない業務も多いことは、読者の皆さんもよくご存じのとおりだ。

私は法解釈の専門家ではないが、おそらく争点となるのは(b)と(d)であろう。(b)については、給特法の趣旨や前提に関わるが、50年近く前の、制定当時(1971年)と現状の実態が大きくかけ離れているのは事実だ。給特法は時間外勤務を命じられるのを超勤4項目だけにして、本来は教師を守ろうとしていたにもかかわらず、実態は法で規定していない4項目以外が広がった。

だが、だからといって(b)の主張が通るかどうかは分からない。

(d)はこれまでの判例の多くが、超勤4項目以外の残業は教師の自発性や創造性に基づいて、いわば「勝手にやってきたんでしょう」という論を展開していることへの批判、反論である。現場の感覚からすれば、テストの作問・採点など、校長の細かな命令の下とは言い難いかもしれないが、学校の業務として校長も認め、各教師に行わせてきたために残業している。それを勝手にやったことと言い逃れするのは、実態と全く合わない。中教審でも、この問題は今後よく議論していく予定だ。

■時間外手当を出すのが本当によいか?

この裁判の行方とは別に、今後の政策論としてはどうだろうか。給特法を抜本的に改正して、超勤4項目以外の残業には時間外手当をしっかり出していくというのが、正攻法のひとつかもしれない。

だが、そこには、(1)財源はどこにあるのか(2)財源があるなら、定数改善やスタッフ増などを図る方がよいのではないか(3)生産性が高く残業が少ない人が損をする制度でよいのか――などの課題もある。

給特法には、今でいう高度プロフェッショナル制度のように、「教師は創造性の高い仕事をしており、単純に労働時間の長さで賃金を決めてよいのか」という問題意識があったのかもしれない。これを今日の実態を踏まえつつ、どう捉えるかが問われている。

今回の裁判が投げかけているのは、無償での長時間労働を余儀なくされている教師が多いことへの警告と、約50年前の法制度の前提で守るべきものと変えるべきものがどこにあるのか――という問題である。