カーンアカデミーやミネルバ大学 学ぶべきイノベーティブな試み

教育新聞特任解説委員 鈴木 崇弘(城西国際大学大学院教授・日本政策学校代表)

■教育ではなかった大きなイノベーション

筆者は教育史の専門家ではないが、概観的に言えば、近代以降は公教育という仕組みができたことで、それ以前には一部の限られた者だけしか受けられなかった教育が、多くの人々が受けられる機会と環境が形成されるようになったといっていいだろう。

学校と教室ができ、教師が複数の生徒に知識などを教える形式がつくられ、多くの子供たちが同一の情報や考え方を学ぶことになった。産業革命により、工場などで製品が大量生産されるようになり、それらを管理するための管理事務部門などが構築される中、この形式はそこで働く大量の人材をつくりだすことに貢献し、時代や社会の変化にマッチした。

その後、社会や時代は大きく変化して豊かになって、人権の価値が高まり、個々人の価値観、意見や生き方が尊重されるようになってきた。だが教育方法は現在も、学校の教室で教師がある程度の数の生徒に対して、講義を行う形式が主流である。最近までは、それ以外の対応は(特に公教育では)、教育の質と量およびそのコストを考慮した場合、難しかったというのが実際だろう。

別言すると、個々人の個性を一定の枠の中に強制する形でずっと教育は行われてきており、教育において、大きなイノベーションはほぼなかったといえる。

■MOOCsやカーンアカデミー

ところが最近はテクノロジーが発展し、従来の手法以外で、新しい教育を提供するいくつかの方法が試みられている。その共通点は次の5つだ。

①ICTなどテクノロジー活用

②巨大なインフラの不要化

③個人のニーズ・進捗(しんちょく)に対応した教育

④国・地域や組織を超えた対応

⑤学び続ける土台の構築

そのうち筆者が関心を持つ事例は次のようなものだ。

まずは、「Massive Open Online Courses(MOOCs、ムークス)」など。これらはインターネット上で誰もが無料で受講可能な、大規模な開かれた講義で、さまざまなプラットホームがあり、日本を含む世界中の大学が多数参加している。ネットがつながれば、一流講師の授業を誰でも無料受講できる。

次が「カーンアカデミー」(注1)だ。これは質の高い教育を、世界中のすべての人に無料で提供するという使命の下、YouTubeで短時間講座を配信している。またソフトウエアの活用で、個々の受講生の進捗に応じた教育を提供するなど、旧来の学習現場を刷新した。

2008年創設の同アカデミーは、数学や科学などの4千超のレッスンビデオがあり、最注目のオンライン教育プラットホームの一つだ。

■世界のエリートが一番入りたい大学

最後が「ミネルバ大学」(注2)。同学は14年9月に開校し、いまだ卒業生を出していないが、世界のエリートが一番入りたい大学として名をはせている。

まず1年時は「社会のどんな専門分野にも活用でき、キャリア形成においても有効な汎用(はんよう)的技能」である「実践的な知恵」を習得。世界最高の講師陣によるオンライン授業を受け、しかも世界の7都市をキャンパスとして移動する。現地でインターンシップなどをしながら、2年時は専門性など「自分の軸」を探り、3・4年時に「実社会への応用」などを学ぶ。要は一生使える基礎を構築し、それをさまざまな文脈の多様な現場で経験し、実践的に生かしていく仕組みだ。

しかもテクノロジーをフルに活用し、学生個々人の教育成果の最大化を図っている。同学は低い授業料(注3)で教育を提供するために、物理的なキャンパスを持たず、滞在都市の最新の研究・芸術施設や図書館を利用し、企業との共同プロジェクトを実施している。

同学の合格率は2%以下。ハーバード、スタンフォード、ケンブリッジなど欧米の名門大学合格者が、それを蹴って進学している。ここでの教育も、まさにテクノロジー発展のたまものだ。

これらのイノベーティブな試みは、既存の教育機関が学ぶべきことも多いだろう。

(注1)サルマン・カーン著『世界はひとつの教室…「学び×テクノロジー」が起こすイノベーション』参照

(注2)山本秀樹著『世界のエリートが今一番入りたい大学:ミネルバ』参照

(注3)米国の既存トップ・エリート大学の3分の1未満