(教育時事論評)研究室の窓から 第42回 主体的・対話的で深い学びの目的

eye-catch_1024-768_chichibu国立教育政策研究所研究企画開発部総括研究官 千々布敏弥

今次改訂の学習指導要領について、中教審諮問の段階でアクティブ・ラーニングの語が登場して以来、アクティブ・ラーニングは初中教育の場ですっかり普通名詞として定着してしまった。ただし、答申および改訂学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」と書き換えられ、しかもその定義があいまいである状況から、多くの学校現場では「どのように取り組んだら主体的・対話的で深い学びになるのか」と逡巡(しゅんじゅん)が続いている。

学習指導要領総則では「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うこと」あるいは「主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること」とのみ記述され、何が「主体的・対話的で深い学び」なのかは記述されていない。学習指導要領解説では「主体的な学び」は「学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しをもって粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる」とされる。「対話的な学び」とは「子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める」こと。「深い学び」とは、「習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう」ことと定義されているが、抽象度が高く、教師たちは具体的なイメージがわかないままではないかと思われる。

対してアクティブ・ラーニングの語を冠した書では具体的な授業の進め方が示されている。おおむね、教師が発問を板書する代わりにワークシートにあらかじめ学習課題と穴埋めや記述などの欄が印刷され、子供はペアやグループで相談しながらワークシートに直接記入することで授業が進行する流れとなっている。ワークシートの作成方針とペアやグループワークの入れ方が論者により異なるものの、従来の授業であれば教師の発問に従って子供が挙手・発言する内容をつなげて授業をまとめていく流れを、ペアやグループで相談する流れが代替していることは共通している。

手法は似ているものの、何をアクティブ・ラーニングの目的とするかは大きく異なる。多く流布しているのは、そうすることで子供の習得が促される、というもの。「全員が○○点を取れるようになる」という類いの宣伝文句が語られる。このタイプの授業においては知識・技能の育成を狙うワークシートが使用されることが多い。

このワークシートによる学習だけでB問題が解けるようになるのか疑問だが、取り組んでいる学校が結果としてB問題の正答率も上昇している事例はある。

次に見られるアクティブ・ラーニングは協働問題解決である。思考力・判断力・表現力を問う課題にグループで取り組み、課題を解決する。子供は正答までたどり着けずとも、思考力・判断力・表現力が鍛えられていると解釈されている。対話能力の育成を主眼とするアクティブ・ラーニングもある。この場合、グループ内におけるコミュニケーションやクラス全体に向けた説明能力も重視される。

ワークシートを活用したアクティブ・ラーニングに対する批判は多い。それに対する反論もそれぞれの論者が展開しているのだが、よって立つ論拠、目的論が語られないままに議論されるために、全体像を把握しにくい。このようなアクティブ・ラーニングの乱立状況を、「主体的・対話的で深い学び」の言葉は整理することができるのだろうか。