(新しい潮流にチャレンジ) 持続可能な開発目標で地球を守る

eye-catch_1024-768_takashina-challenge教育創造研究センター所長 髙階玲治

プラネタリー・バウンダリーの視座

〇ESDの大きな広がり

持続可能な開発のための教育(ESD)はわが国において大きな広がりを見せている。何よりも政府主導によるユネスコスクールやNPO法人などの働き掛けによって、ESDの実践校が急激に増加している。本紙も積極的に応援していて、紙面に載ることが多い。

私が初めてESDを詳しく知ったのは2010年の「中等教育資料」12月号である。「持続可能な開発のための教育の充実」が特集であった。周知のようにESDは日本提案・国連承認・ユネスコ主導の世界的な教育改革運動で、わが国の関心は高く、すでに2003年には日本ユネスコ国内委員会が7項目の提言をしている。例えば▽先進国がESDを自らの課題として取り組むこと▽地域社会における絆を重視すること、▽ESDを基礎にした教育の質の向上を図ること▽ESDにおける教師の重要な役割に鑑み資質向上のための方策を講じること▽関係機関・関係者間のパートナーシップなくしてESDの実現はあり得ないこと――などである。このようなESDの初期の実践構想を徐々に着実に実施してきた姿が今日であろう。

その「中等教育資料」が2017年の3月号で「ESDの今後の展望」を特集している。

国で目指す「今後の展望」であるが、一つは「学校教育におけるESDの取組」重視である。例えば、『ESDの推進の手引』を作成しているが、それを活用して教委や研究センター、校長などが連携し、研修の機会を持つなどのほか、ESDに重点的に取り組む学校を支援する事業も行うとされる。また一つは、ESDに取り組むさまざまな関係団体等が互いに推進ネットワークを組んで協働・連携する仕組みを構築することである。そのためのESD活動支援センターを地方に設定したいとしている。さらに注目されるのは、「持続可能な開発目標(SDGs)」との連携を深めることが考えられている。

〇持続可能な開発目標(SDGs)の視点

持続可能な開発目標とは2015年に国連サミットで採択されたもので「持続可能な開発のための2030アジェンダ」である。世界を支えるための17のゴールを示していてSDGs(Sustainable Development Goals)と言われている。

SDGsは17の大きな目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されているが、17の目標は次のようである。

①貧困をなくそう②飢餓をゼロに③すべての人に健康と福祉を④質の高い教育をみんなに⑤ジェンダー平等を実現しよう⑥安全な水とトイレを世界中に⑦エネルギーをみんなに、そしてクリーンに⑧働きがいも経済成長も⑨産業と技術革新の基盤をつくろう⑩人や国の不平等をなくそう⑪住み続けられるまちづくりを⑫つくる責任つかう責任⑬気候変動に具体的な対策を⑭海の豊かさを守ろう⑮陸の豊かさも守ろう⑯平和と公正をすべての人に⑰パートナーシップで目標を達成しよう――。

この中で直接教育に関連するのは④の「質の高い教育をみんなに」であるが、「すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」としている。

このようなSDGsを受けて、わが国でも今後のESDの推進にはネットワークが必要だとして、「ESD推進ネットワーク」の構築が進んでいるという(本紙4月30日)。すでに、広域的なハブ機能を担う「地方ESD活動支援センター」が全国の拠点に開設されている。このようなESDの展開は今後さらに充実するという期待が持たれるのである。

〇プラネタリー・バウンダリーの警鐘

最近、SDGsの関連で環境科学者であるスウェーデンのヨハン・ロックストローム博士が来日し、そのインタビュー記事が「中央公論」10月号に載った。博士は地球上で人類が自然環境や生態系を壊すことなく安全に暮らしていけるよう、「プラネタリー・バウンダリー」(地球の限界)を設定し、「安全圏」内での持続可能な発展を呼び掛けている。その呼び掛けは極めて重要なことである。その考え方は写真家であるM・クルム氏との共著「小さな地球の大きな世界」(丸善出版2018)に示されている。この図書には地球の危機を示す写真がいくつも載っていて心をゆさぶられる。

博士は、約1万2千年前から現在まで気温の変動が激しく、干ばつ、洪水、食料危機などの荒々しい環境を経て、いまや76億人もの人口を養う時代を迎え、「楽園」の状態にあるという。しかし最近、1990年以降の約25年間で、自然生態系の破壊は幾何級数的に進み、地球を制御し安定させる生物物理学的なプロセスは飽和点に達しているとする。

安全圏の限界を超えている分野は四つ。①生物多様性の損失②チッソリン肥料の過剰生産と過剰使用③気候変動④(プランテーションへの転換など)土地利用の変化による森林の劣化・減少――である。さらに「最も重要で喫緊の2つの課題」に、持続可能なエネルギーと食料供給がある。気候変動分野で安全圏に戻るためには、2050年までに化石燃料を使わない世界になる必要がある。技術があれば答えは「イエス」だという。

2050年には世界人口が90億人を超えるとされる問題は、技術に加え、ライフスタイルや行動の変化で賄うことは可能であるとする。

プラネタリー・バウンダリーを設けるのはなぜか。「崖沿いの曲がりくねった道を夜、車で走るには、崖から落ちないようガードレールが必要。プラネタリー・バウンダリーは、ガードレールのようなものです」と博士は語っている。

著書の中で博士は書いている。数世紀の間続いた、有限の惑星に制限を設けずに成長できるとする信念を変えるために、40年前から「成長の限界」を提唱してきた。そして、化学物資や地球の空気や水質、生態系の保護など、自らの裏庭をクリーンに保てば「持続可能な開発」が可能と考えてきた。しかし、それは間違いだった。地球ははるかに複雑で、一つの地域での環境破壊は、より離れた場所での別な影響を引き起こす。

従って「限界の中での成長」を地球規模で考える必要がある。地球の生物物理学的限界に関する科学から得られる知見と、変革に必要な技術や価値に値する新たな進展を組み合わせ、知恵や革新、協働を世界的に展開すれば、真に豊かな世界を創造する無限の機会が得られる。それは持続可能な開発を「地球上で安全で公正に活動できる空間内で、すべての人が良好な生活を追求すること」として再定義する。

そのため、2100年に生存する可能性の高い今の子供たちに数字の「ゼロ」をプレゼントしたいと言う。「炭素の排出ゼロ、生物多様性の損失ゼロ、農地の拡張ゼロ」という三つのゼロは、科学に基づく新しい世界の開発アジェンダであり、これだけで、人間活動を相当程度、地球の安全な機能空間内に収めることができる、と。

博士は最後に述べている。「安全で豊かな未来を達成するために必要なのは、地球上に残っている美しさを、献身的に守る覚悟を持つことだ」