(新しい潮流にチャレンジ) 近未来の教育の胎動と課題

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教育創造研究センター所長 髙階 玲治

EdTechは教育をどう変えるか

近未来のイメージと実践ギャップ

2020年から新学習指導要領への完全移行が小学校から順次始まるが、文科省は2030年を見据えて新たな教育展望を描き出しはじめた。18年6月に公表した『Society5.0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる』である。

「超スマート社会」と言われるSociety5.0の出現は国や企業などにとって喫緊の課題であって、教育もまた大きく変動すると予測されている。端的な影響はAi(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの出現である。

その結果、新学習指導要領の2020年代に並行して教育イノベーションへの胎動が始まることになる。新学習指導要領は、その後10年間固定化されるままとは思えない状況である。

恐らくは、近未来のイメージやそれに伴う新たな教育の在り方と学校の日常実践との間にギャップが生じる事態が起きるのではないか。

例えば、2030年の学校や学びはどのようなイメージかと言えば、一斉一律の授業から、個人の進度や能力、関心に応じた学びの場へ変わる。また、学習到達度や学習課題などに応じて異年齢・異学年が協働で学ぶようになる。

つまり、教科書が役に立たなくなるのである。教科書は明治以降の近代教育の重要な発明であった。教科書があることで、全国共通レベルで同一学年の子供は学力を身に付けることができた。それが通用しなくなる。教科書は情報の質・量のみでなく、使い勝手がひどく悪いものになる。デジタル教材が取って代わるのである。ただ、しばらくは両者が並行して使用されるであろうが。

そうした新たな学びが学校にいつ頃導入されるのか。それは未確定である。ただ、その導入は教員に大きな指導の転換を迫ることになる。それを効果的に進めるために、AIやIoTなどが活躍するであろうが、教員の指導との間のギャップは極めて大きなものになる可能性がある。

近未来の教育はどう変わるであろうか。

EdTechとは何か

近未来の教育を考える上で経済産業省の進めるEdTechは極めて興味深い。「未来の教室」とEdTech研究会の第1次提言を18年6月に発表している。教育とテクノロジーを融合させようとする試みである。

その中でEdTechを次のように説明している。「テクノロジーを活用して教育に変革をもたらすサービス・技法を指すものとして、またサービス・技法を構成する要素テクノロジーそのものを指すものとしても用いている」としている。

なぜ、このような「未来の教室」の発想が必要とされるのか。その背景にはわが国が前例のない「超高齢社会」に対応した社会システムの再構築などの「課題先進国」から「創造的な課題発見・解決力」への転換が必要とされていると考えている。教育もまた「教科(系統)主義や経験主義の壁」や「一斉・画一的な教育方式」への挑戦、システムとしての「民間教育と公教育の壁」「教育と社会の壁」への挑戦が必要とされるという。重要なのは「学びの生産性」を上げることで、そのために教育イノベーションが必要なのである。

その基本は「学習の個別最適化」である。それは「教育の情報化」の次元を超えて、「学び方」そのものを変えるはずだという。EdTechは「学習者の特性・興味・関心」を見いだし、学習者の「Will(志)」を引き出す助けになり、多くの人たちに「学習の自由化」(個別最適化された学び方を世界中から幅広く選べる)や「学習の民主化」(幼い頃から誰もが探究できる)という恩恵を与えるだろう、と。

50センチ革命・越境・試行錯誤

EdTechには、それらを実現するためのキャッチフレーズがいくつかある。その一つが「50センチ革命・越境・試行錯誤」である。どのような改革も一歩一歩の前進が必要で、それが「50センチ革命」である。次は改革にはさまざまな専門性・組織・業種・地域・国境の壁を「越境」する必要があるとする。そして分野・横断の知や技能を集めた「試行錯誤」を繰り返す中で達成されるという。

基本は学習者中心に学び方をデザインする「学びの社会システム」である。そのイメージを図で示している。具体的には、次のような説明がある。ラフ・スケッチである。

①幼児期から「50センチ革命×越境×試行錯誤」を始める②誰もが、どんな環境でも、「ワクワク」(遊び、不思議、社会課題、一流、先端)に出会える③学習者が「自分に最適な、世界水準のプログラム」と「自分に合う先生」を選べる④探究プロジェクト(STEAM(S))= Science Technology Engineering and Mathematics)で文理融合の知を使い、社会課題や身近な課題を試行錯誤する⑤常識・ルール・通説・教科書の記述などへの「挑戦」を、(失敗を含めて)「学び」と呼ぶようになる⑥教科学習は個別最適化され、「もっと短時間で効果的な学び方」が可能になる⑦「学力」「教科」「学年」「時間数」「単位」「卒業」などの概念は希釈化され、学びの自由度が増す⑧「先生」の役割は多様化する(教える先生、教えずに「思考の補助線」を引く先生、寄り添う先生)⑨EdTechが「教室を科学」し、教室は「学びの生産性」をカイゼンするClass Labになる⑩社会とシームレスな「小さな学校」に(民間教育・先端研究・企業/NPOと協働、CSR(企業の社会的責任)/CSV(共有価値の創造)が集中)。

これらはラフ・スケッチと述べているように、個々の課題はさらに十分な検討を要するであろう。

また、重要なこととして、諸外国の動きも述べているが、そこにも近未来の教育の在り方が示されている。例えば、米国は産業競争力基盤としてのSTEM等教育と教育現場でのEdTech振興を明確な国家戦力としている。中国も明確な国家戦略として「中国製造2025」を支えるSTEM教育の強化を図っている。オランダは、教育の自由のもと文理融合、個別最適化学習のさまざまな工夫を行っている。イスラエルは、幼児教育・学校教育、兵役の各段階でのSTEM重視の姿勢である。シンガポールはAI人材の育成とエリートの非認知能力の強化を進めている。

ところで、このようなEdTechについて、どのようなイメージや期待を持ったであろうか。確かに従来型の教育システムは大きな転換を必要とするが、それは学校や教師の役割もまた大きく変わることを意味する。文科省の進めるSociety5.0に示された教育の姿と同じように、今から将来の課題や転換を見据える必要があるものである。

2030年、学校はどう変わるか、は現実としての課題である。