(新しい潮流にチャレンジ)学校の創造的働き方改革は可能か

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

学校・教員の意識改革が早急に必要
〇学校の働き方改革の難しさ

中教審は昨年の12月6日に「学校の働き方改革素案」を公表したが、その内容の実効性について疑問を感じる教育関係者は多いのではないか。

周知のようにわが国の企業などの働き方改革は昨年6月に国会で可決している。その主な内容は、時間外労働の上限規制、有給休暇の消化義務、高度プロフェッショナル制度創設、同一労働同一賃金の適用、衛生管理の強化などである。ただ学校の場合は特別な職務形態が存在しているために、その実施が容易でないと考えられている。

しかし、学校の働き方改革もまた喫緊の課題である。新学習指導要領の実施に向けて複雑化・困難度を増していることを考えれば、学校として早急に取り組むべきである。中教審の「素案」が、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のため」と表題に掲げているように、まさに早急に課題解決が求められるのである。

ただ、なぜか教員の働き方改革の意識は長年低いままだった。多忙という意識や実態があっても、残業を当然と考える傾向は強かったといえる。例えば、2006年の文科省の「教員勤務実態調査」によれば、「仕事に追われて生活にゆとりがない」とする小学校教員は「とても感じる+わりと感じる」が77.1%、中学校教員が77.2%であった。「教員が行う仕事が多すぎる」は同じく小学校が84.8%、中学校が83.8%であった。さらにOECDの国際比較調査でわが国の中学校教員の勤務時間が他の調査国と比べて飛び抜けて多いという実態が示されたりした。

その意味では、今回の学校の働き方改革はようやく具体的な提案として示されたことで大いに期待すべきことである。また、国に行っている働き方改革とも連動すべきであって、中教審「素案」にかなり不満があるとしても、今後の継続的な課題としてよりよい改革を求めていく必要がある。

〇教員の意識改革からのスタート

ところで学校教員は、働き方改革をどう受け止めているであろうか。

周知のように教員の多忙の実態はさまざまなデータから、時に「過労死ライン」を超えてまで残業しているとされる。

最近ある小学校がタイムカードを導入した。その効果は予想以上で何よりも教員が残業時間に気を使い始めたことであった。最も積極的になったのは校長で、1カ月の残業時間を計算して教員を指導することに努力し始めた。ところが、その指導に最も抵抗するのが教員だという。また、残業を減らそうとしても行事などが重なる月は80時間を超えるし、土曜日授業は行っていないが、クラブ指導があれば80時間を超えるという。

ただ、最も重要な点は働き方改革を意識してから、これまで慣習的に行ってきた子供への指導や教員の職務内容などについて、細かな改善点を見つけることが多くなったことだという。

教員個々も意識的に改善に取り組んでくれれば、学校教育がさらに効率的・効果的に行えるのではないかと校長は考え、提案制度などを考慮中とのことであった。

このような例をみると、早急に必要なのは教員個々の働き方改革への意識を盛り上げることではないかと考える。タイムカードで残業時間を自覚し、職務改善に積極的になれば学校教育の在り方や組織運営が充実するのではないか。

これまでは、教員には「残業は当然」とする意識傾向が顕著である。給特法があって、教員の職務の特殊性と勤務態様の特殊性から、「超勤4項目」以外は職務命令ができない。したがって勤務時間管理は不要とされ、残業は教員個々の自発性に基づくものとして、それが長年の習慣となって今日に至ったのである。

このような教員意識を何よりも変える必要があると言える。学校の働き方改革を、何よりも学校や教員が自覚的に取り組む姿勢がほしい。

〇創造的な働き方改革を目指す

今回の中教審「素案」は、しかしながら多くの課題がみられる。学校のみで改革を推進できるほど容易ではない。働き方改革の基本は、①仕事を減らす②効率化する③人を増やす――の3点である。そして、さらに重要なことはその三つを進めながら、学校教育の生産性を高めることである。

そのことで言えば、「素案」は、①の仕事を減らすことのみを重視しているように見えるが、②③についての改革の方向性が見えない。それらは文科省に要望している程度で、実効性はかなり低いのではないか。その結果、働き方改革は上限規制に基づいて学校それぞれが努力するよう、学校に押し付ける形になりそうである。何よりも、③の人を増やすことがないために、学校は現有勢力で働き方改革を推進しなければならないことである。改革は効果的に実施されるであろうか。

最も重要なことは、学校教育の生産性を高めることで、その生産性というのは例えば小学校に英語教育が導入されたが、教員個々が十分に指導力を身に付けて学習指導要領で掲げる教育レベルを維持・充実できる、ということである。

さらに言えば、新学習指導要領の「総則」に未来社会に生きる児童生徒に「豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手になることが期待される」と述べているように、従来とは異なってさらなる高い展望がある。こうした教育の実現のためには、教育環境を整え適切な指導を可能とする教員組織としての学校が必要であって、働き方改革はそうした方向性を持つことを前提とすべきである。そうでなければ、「仕事を減らす」ことのみが優先されて、子供に必要でもカットするという事態が生まれかねないのである。

その例が、子供への通知表を指導要録に記録と連動させるとする「素案」の考え方である。次期指導要録は簡素化の方向のようであるが、要録の基本は「在学証明」と「成績証明」である。その「成績証明」の部分が従来記入しづらいとされて簡素化が求められてきた。

一方、通知表は必ずしも作成しなければならないものでなく、ない学校もある。それが必要と考えられるのは、学期ごとや年度内において子供がどのように努力したか、その成績の確認と「はげまし」の意味が強かったからである。従って、各学校が独自のスタイルで作成し、子供に渡すことが慣習化されていた。子供も保護者も、通知表は大切なもので長く保管したりした。

だが、その通知表の記入が面倒と考える空気が学校に出現し、3学期の通知表の記録をそのまま指導要録に転写することが多くなっていた。

しかし、今後、指導要録が簡素化され、それと同様の通知表を渡されるとすれば、子供が喜ぶであろうか。「子供のため」という教育の前提はどこへ行ったのであろうか。何よりも子供に理解できる通知表になるであろうか。

実は、教員の仕事を軽減する目的で、他にも子供の教育を阻害する例がみられる。十分注意が必要である。ただ、学校教員の過剰と言える働き方は、「子供のため」によかれと考えて実施していることがほとんどである。「仕事を減らす」こと以上に、「能率化する」「人を増やす」ことが重要である。

そのことでは中教審の「素案」は限界がある。教育実行再生本部が第11次提言として「働き方改革」を首相に要請していることに期待したい(本紙、12月20日付)。

現在の段階では、教育再生本部が「第11次提言」をまとめた段階で、論議はこれからであるが、単に「仕事を減らす」のみでなく、「人を増やす」「能率を上げる」具体的な政策を示してほしいと考える。

学校の働き方改革の新たなステージについて、これからの論議の推移について注目したい。