(注目の教育時事を読む)第58回 特別支援学校高等部学習指導要領の改訂

eye-catch_1024-768_tyumoku-kyoiku_r20180426藤川大祐千葉大学教育学部教授の視点

情報技術の活用やキャリア教育の充実に期待
◇小中高教育の一歩先を行くように◆

本紙電子版2月4日付で報じられているように、文科省は2月4日、特別支援学校高等部の新学習指導要領を告示した。

特別支援学校については、幼稚部教育要領と小学部および中学部の学習指導要領が2017年4月に告示されており、これらに約2年遅れて高等部の学習指導要領が告示されたこととなる。高等部の新指導要領は、約3年後の22年度から年次進行で実施されることとなっており、一部は移行措置で先行実施される。

特別支援学校の指導要領の改訂は、小中高などの指導要領改訂と並行して進められていたこともあり、改訂内容の多くは小中高と通じるものとなっている。

文科省がまとめた高等部改訂のポイントでは、「社会に開かれた教育課程」「育成を目指す資質・能力」「主体的・対話的で深い学び」「カリキュラム・マネジメント」といった小中高の新指導要領のキーワードが並ぶ。また、小中高の教育課程との連続性の重視もうたわれている。

では、特別支援学校の教育は小中高の教育の後ろを行くようなものなのか。いや、むしろ小中高の教育の一歩先を行く必要があるだろう。新学習指導要領も、そのように読み取られるべきであろう。

◆さまざまな技術の活用に期待◇

特別支援学校の新学習指導要領では、情報技術などの活用やキャリア教育に関する記述が豊富にある。高等部新学習指導要領の記述を見てみよう。

情報技術などの活用については、現行指導要領と同様に、生徒の障害種別に対応して、コンピューターなどの情報機器、視聴補助具、補聴器の活用が求められている。細かく見ると、聴覚障害がある生徒への教育に関して人工内耳の利用が例示されたり、病弱の生徒への教育に関して「間接体験や疑似体験、仮想体験」や入力支援機器の利用が例示されたりと、この10年間の情報社会の進展に合わせた新たな記述が見られる。

特別支援学校ではVR(バーチャルリアリティー)を活用して動物園を疑似体験させる授業が行われた例や、病室にいる生徒の「分身ロボット」が導入された例などがあるが、新学習指導要領の記述を受けて、病弱でなかなか出掛けることができない生徒が、VRやロボットを使って学ぶ機会が広がっていくかもしれない。

小学部や中学部の学習指導要領解説においては、改訂によって「タブレット端末等の拡大機能や読み上げ機能」「具体物をインターネットで遠隔操作」といった記述が加えられており、高等部の指導要領解説においても同様の記述が盛り込まれることが十分考えられる。

先日、開催された千葉県立四街道特別支援学校の遠隔教育に関する研究発表会では、無料の汎用(はんよう)的なソフトと安価なノート型コンピューターを活用した、遠隔授業システムが紹介された。

生徒の体調に応じてリアルタイムでの授業参加にも事後のオンデマンド授業受講にも対応できる。新学習指導要領の告示を受け、各地で生徒の学習に必要な、さまざまな技術の活用が進むよう期待したい。

◇生涯を通した社会参画を◆

キャリア教育に関しては、新指導要領では記述が厚くなり、「特別活動を要としつつ各教科・科目等または各教科等の特質に応じて」キャリア教育の充実が図られるべきと明記された。

現行指導要領が進路選択に資する内容が中心であるのに対して、新指導要領では「社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付け」ることを求めており、さらに「生涯学習への意欲を高める」という記述も見られる。学校を出てすぐの進路を決めるだけにとどまらず、生涯を通して社会に参画し、豊かな人生を送ることにつながるキャリア教育が求められているのがうかがわれる。

16年に施行された障害者差別解消法は、障害を理由とする差別解消の推進を目的とした法律であり、行政機関や事業者に社会的障壁の除去のために合理的配慮を求めている。

だが、この合理的配慮は、障害のある者が社会的障壁の除去を必要としているという意思の表明を前提としてなされることとなっている。行政機関や事業者側の一方的な配慮が求められているのでなく、当事者の意思表明とそれに対応する配慮が求められているのである。

当然、キャリア教育の推進に当たっては、自ら意思表明をして必要な配慮を求めつつ、社会に貢献し自己実現につなげられるよう指導する必要がある。

近年、高等部を中心に特別支援学校在学者が増えている。義務教育を終えた者の就労や、高等教育との接続を担う高等部の役割は、さらに重要度を増すだろう。

新学習指導要領告示を受け、各地の高等部が最新の情報技術を活用し、生涯を見据えたキャリア教育を行うことを通して、特別支援学校高等部が社会に開かれた最先端の教育を進められる場となるよう期待したい。その成果は、高校等におけるさまざまな障害のある生徒への対応や、彼らの就労環境の改善などの波及効果をももたらしてくれるはずだ。