個性を生かす教育 再定義と具体化の在り方

教育新聞論説委員 工藤 文三

個性を生かす教育の意味

「生きる力」「基礎的・基本的な内容」「個性を生かす」などの用語は、各学校における教育課程編成の基本的な考え方として、改訂の際も引き継がれてきた。ただ、これらの用語は、改訂時の学習指導要領の文脈の中で位置付けられ、それぞれの意味を担ってきた。

1989年、98・99年改訂の学習指導要領では、「個性を生かす教育の充実」は「基礎的・基本的な内容の指導を徹底」および「基礎的・基本的な内容の確実な定着を図り」と並んで示されていた。

2008・09年改訂では、いわゆる学力の3要素が学校教育法において明確にされたため、これら三つの要素を示した後に「個性を生かす教育の充実」が示された。さらに、17・18年改訂では、「主体的に学習に取り組む態度」に続いて「個性を生かし多様な人々との協働を促す教育の充実に努めること」とされた。位置付けは、08・09年改訂と同様であるが、「多様な人々との協働を促す教育」と並んで示されることとなった。

これらの示し方からうかがえるのは、次の点である。89年、98・99年改訂では、「基礎的・基本的事項」の確実な習得の上に、個性を生かす教育を進めるという趣旨である。08・09年以降は、目指す学力の要素が示されたため、これらを受けて、最後に個性を生かす教育の充実が示された。

個性を生かす教育の出発点

個性を生かす教育の原点は、87年の臨時教育審議会の第四次答申にある。同答申では、それまでの三次にわたる答申をまとめて、三つの改革の視点を示した。個性重視の原則、生涯学習体系への移行、国際化・情報化など変化への対応である。個性重視とは、それまでの教育の画一性、硬直性を打破して、自由・規律、自己責任の原則などをうたうものであった。

個性重視の原則は、学校体系の側面から見ると、画一的な性格を持っていた中等教育を多様化し、中高一貫教育を可能としたり、高等学校の学科や課程の選択肢を増やしたりすることを意味した。現にその後、中高一貫教育の制度化や高等学校における総合学科の設置、単位制の拡充などの改革が進んだ。

一方、個性重視の原則を各学校の教育課程編成の側面から具現化するに当たって、選択履修幅を拡大する方法がとられた。全ての児童生徒が共通の内容を学習するのではなく、各自が自ら判断して学習内容を選択・履修できる仕組みの整備である。

方法としての個性を生かす教育をどう進めるか

89年、98・99年改訂における選択履修幅の拡大をもって、個性を生かす教育の具体化は進められた。89年改訂の学習指導要領では、中学校の一部の必修教科の標準授業時数が下限と上限(範囲)で示された。また、選択教科の範囲と授業時数は、98年改訂の学習指導要領まで拡大された。高等学校においても、選択履修幅の拡大が追求された。

08・09年の改訂では、中学校の選択教科の実態なども踏まえ、また、確かな学力育成の要請などを受けて、履修の仕組みとしての個性を生かす教育の推進は見直されることとなった。

個性を生かす教育には、以上のような履修システムの工夫によって、児童生徒に習得させる資質・能力を多様なものにする方法がある。ただ、そのほかに教育方法としての個性を生かす取り組みも考えられる。この取り組みは、履修内容は同一でも、児童生徒一人一人の着想や工夫を生かし、学習のプロセスを多様化するものである。到達する目標は同じでも、思考や判断のプロセスに意義を見いだすものである。

小・中・高等学校を通じて、選択履修幅を拡大する中で個性を生かすという考え方が薄れている現在、個性を生かす教育をどのように再定義し、具体化するかが問われている。