(新しい潮流にチャレンジ)教員の仕事の成果をどう測るか

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

大阪市の人事評価が問い掛けるもの

大阪市長の提案

本紙2月11日号に「大阪市 人事評価で新制度」の記事が載った。その新制度は「独自の学力テストを反映」するものとある。学力テストの結果を活用して教員評価に結び付けようとするもので、教師の反発が起きそうであるが、どのような意図を持つものであろうか。

大阪市の学力調査に基づく人事評価の提唱は昨年8月の吉村洋文市長(当時)によるものである。早速、朝日新聞が8月28日の「社説」で「大阪市長 学力調査を乱用するな」と反発した。

「学力を底上げするのが狙いだというが、理解できない。成績が振るわない学校・地域を置き去りにし、格差を広げかねない。子どもの弱点をつかんで授業の改善に役立てるという調査の趣旨を逸脱し、過度な競争や序列化を招く恐れが強い。市長は方針を撤回すべきだ」。

大阪市は、全国20の政令指定都市の中で学力調査の平均正答率が2年続けて最下位であった。それが市長の課題意識にあったことは確かである。

ただ、多くの教育関係者が認識しているように、学校によって学力格差が大きく、低い学校の改善は容易でないという現実がみられることである。安易に学力テストを教員の人事評価に結び付けるとさまざまな問題が露呈することは確かである。

実は、この制度について中室牧子教授(慶應義塾大学)が『中央公論』3月号に「大阪市は学力調査を『乱用』しているか」という論文を載せている。

ちなみに、中室教授は著書『「学力」の経済学』でエビデンスの重要性を提唱し一躍有名になった。また、大阪市総合教育会議に有識者として参加している。

人事評価の意図は何か

中室氏によれば、市長の考えは違った意図があったという。市長は自身のツイッターで教員評価に「ペイ・フォー・パフォーマンス」(P4P)を取り入れる示唆がみられたという。

このP4Pとは、医療関係者など極めて難しい職業に使用されるが、わが国では実施されていないようだ。教員の場合は、中室氏によれば、「担任したクラスの生徒の学力調査の結果を、教員の給与や賞与、人事考課に反映させる仕組み」である。

これまでの教員の昇給は著しい横並びで、個々の教員の努力や創意工夫、成果などに報いる昇給になっていなかった。例えば、学力の低い学校でわずかに成績を向上させても、その成果は可視化されず、無視されることが多い。

そこで、新たな評価方法を考えたのが大阪市長であった。東北大学教授である大森不二雄大阪市特別顧問の「提案」には、大阪市教育振興基本計画に、「頑張っている教員がより頑張れるような制度構築に向け、新たなキャリアステージの構築や職責に応じた処遇改善、キャリアステージの構築に合わせた研修体制の再構築、能力・実績をより反映しうる人事評価制度の整備など、諸制度が一体となったトータル的な改革を順次実施」するとされているという。今回の提案はその一環である。

そこで、成果を上げた学校や教職員を公正・公平に評価すべきだが、地域や学校が多様なので、学力の高さではなく、学校や教職員の頑張りによる変化として「学力の向上度」を評価すべきだという。
「学力の向上度」とは何か。中室氏によれば、子供が獲得した学力の「水準」ではなく、「付加価値」で「変化幅」だという。

「もともと学力の水準が30点だった生徒が翌年の学力テストで35点だった場合、学力の変化幅は5点となる。一方、もともと学力の水準が80点だった生徒が翌年も80点だった場合は変化幅は0点である。もし付加価値で評価するP4Pが導入された場合、30点だった生徒を5点あげられた教員は、80点を変えられなかった教員よりも高く評価される」。

その場合、学力の点数のみで評価してよいか、という疑問が湧くであろう。中室氏は、こうした評価をすることには一定の合理性があるとする。

それは米国の大学の研究として、付加価値の高い教員の指導を受けた生徒は、大学進学率、進学した大学の偏差値、生涯賃金、貯蓄率が高く、10代で妊娠する確率が低いことが示されたという。

「付加価値の高い教員は、ただ単に担任した生徒の学力を上げるにとどまらず、将来にわたる成果にプラスの影響を及ぼす可能性が示唆されている。つまり、学力を『伸ばす』ことのできる教員は、学力以外にも好影響を与える優れた教員だと言ってよい」としている。

このP4Pは、アメリカでは2004年から12年の間に40%も増加していて、デンマーク、インド、イスラエル、ケニア、ハンガリー、ノルウェーなどでも実施しているという。

教員評価と学力向上への期待

大阪市の新制度による人事評価はどう決着したか。2月11日の本紙によれば、全国学力調査は対象学年が小6、中3で、(4月実施のために)比較できないとして導入しない。

新制度では、市が小3~6年生を対象に、国語、社会、算数、理科で実施する「学力経年調査」と、府が中1~3年生を対象に国語、社会、数学、理科、英語で実施する「チャレンジテスト」とする。

校長の人事評価の20%分にテスト結果を活用し、学校ごとの達成度を5段階で評価するという。なお、校長の総合評価には、①子供の安心・安全および成長を確保する業務②子供の学力・体力の向上を確保する業務③学校経営のためのその他の業務(所属職員の育成・指導を含む)――があって、学力のみの教員評価でないことである。

ただ、「学力の向上度」は果たして適切に測れるのか、実施上の課題は残ると考えるが、私はさらに期待したいのは、本紙に語ったという新制度についての次の市長の言葉である。

「結果を出した学校は、配布された予算でいいところを伸ばしてもらいたい。併せて、その学校がどういう取り組みをしたのか、教委で分析し、プラスの連鎖を生み出してほしい」。

特に、この言葉の後半が重要である。教師の誰もが望んでいることは、どうすれば学力が向上できるかという具体的な指導法である。

以前、学力調査の結果を公表する問題で、単に数値的なもののみではなく、教委は学力が上がる指導法を同時に示すべきとされたが、今までほとんど実行されなかった。学力向上が叫ばれていながら、その指導法は依然として曖昧なのである。

もしも大阪市の「学力の向上度」が適切に把握され、その取り組みの結果が具体化されるなら、指導モデルとして全国に広がる可能性がある。その「プラス連鎖」こそ今もっとも必要とされることである。大阪市の試みに大いに期待したい。