(新しい潮流にチャレンジ)価値創造の実践的課題とは何か

eye-catch_1024-768_takashina-challenge

教育創造研究センター所長 髙階玲治

これからの教育の進化のために

「創造」から「価値創造」へ

最近、「創造」の言葉が氾濫しつつある。しかも「創造」のみではインパクトがないのか「価値創造」と表現されることが多い。「価値創造」とは新たな概念なのであろうか。

例えば、『初等教育資料』2016年2月号の特集は「創造性を育む 教育活動の推進」であった。それが18年10月号の特集では「新たな価値を生み出す 豊かな創造性の育成」となっている。

その背景にはOECDの30年の未来を目指す「Education2030プロジェクト」が定義するコンピテンシーがみられるであろう。

新たなコンピテンシーは、①新たな価値を創造する力(Creating new value)②対立やジレンマを克服する力(Coping with tensions and dilemma)③責任ある行動をとる力(Taking responsibility)――である。

実のところ、「価値創造」の言葉は最近頻繁に使われるようになった。

例えば、1月9日の日経新聞に東京大学の五神真総長の興味深い話が載っていた。

現在国立情報学研究所が管理している学術情報ネットワーク「SINET(サイネット)」という仕組みがあって、国内の800以上ある研究機関を光ネットワークで結べば、小中高で先進教育が可能であり、「価値創造」の基盤が形成できるとする。

ここでも「価値創造」の言葉が実行性のある言葉として使われている。なお、柴山文科大臣が遠隔教育の普及に言及しているが、SINETを活用すれば大学と学校との連携も進むとされる。

「価値創造」の意味とは何か

ところで、「価値創造」とは、どのような意味であろうか。この言葉は教育の分野のみでなく、日立、ソニーなどの多くの企業でも広く使われていることを用語解説が教えてくれる。

例えば、「『わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します』という企業理念のもと、研究・技術開発力の強化に継続的に注力し、『先端技術』を創出するとともに、お客様にソリューションを提供し新しい価値を創造するニュー・バリュー・クリエーターを目指しています」(東レグループ)のようにである。

最近、企業などでも「価値創造」を使用している例は多いのである。そこで、OECDのプロジェクトが「価値を創造する力」を新たにコンピテンシーとして使用し始めていることから、その説明を長いが引用したい。

「より強固で、より包括的で、より持続的な発展のためには、新たな成長のための資源が直ちに必要となる。イノベーションにより、あまりコストをかけないで、経済的、社会的あるいは文化的なジレンマに対する重要な解決策が得られる。イノベーションに富んだ経済は、より生産的で、強靱(きょうじん)で、順応性があり、より高い生活水準をもたらすことができる。2030年に備えるためには、創造的に考えたり、新しい製品やサービス、仕事、プロセスや方法論、新たな思考方法や生活様式、新たな起業、新たなセクター、新たなビジネスモデルや社会モデルを開発したりすることができるようにならなければならない。今後、イノベーションは、個々人の思考や作業のみならず、他者との協力と協働により既存の知識から新しい知識を生み出すことを通して、ますます引き起こされるようになる。このコンピテンシーを支える構成概念としては、適応力、創造力、好奇心や、新しいものに対して開かれた意識が含まれる」(文科省「OECDEducation2030 プロジェクトについて」)

このような説明を読むと、「価値創造」は独自の意味が付与された概念でなく、適応力、創造力、好奇心などの構成概念は内包しながら、生きるための社会的、経済的、文化的などの生活態度や生産活動に関わるものを考えさせられる。

その意味では、創造力や好奇心などの構成概念はもともと「創造」の要素とされてきたものである。また「創造」には新たに創られる「価値」もまた含まれていた。

したがって、特別な場合を除き、「創造」で語る世界もまた同じような意味付与として考えてよいであろう。

未来志向としての「価値創造」の重要性

だが、なぜOECDは新たなコンピテンシーとして、①新たな価値を創造する力②対立やジレンマを克服する力③責任ある行動をとる力――をあげているのであろうか。

それは未来社会におけるAIなどがもたらす前例のない大きな変化への対応である。それは現時点では明確に予測できない。そこで、「問い」を持つことで準備態勢を整えようとする。

OECDのシュライヒャー教育・スキル局長は次のように「問い」を投げ掛けている。

▽現代の生徒が成長して、世界を切り開いていくためには、どのような知識やスキル、態度および価値が必要か。

▽学校や授業の仕組みが、このような知識やスキル、態度および価値を効果的に育成していくことができるようにするためには、どのようなことが必要か。

この問題は極めて重要である。わが国も文科省が18年に「Society5.0に向けた人材育成」を公表しているが、その中で30年の学校教育で社会を牽引(けんいん)する人材が求められるとして、「技術革新や価値創造の源となる飛躍知を発見・創造する人材」「技術革新と社会課題をつなげ、プラットフォームをはじめとした新たなビジネスを創造する人材」「様々な分野においてAIやデータの力を最大限活用し展開できる人材」を挙げている。

ここでも「価値創造」や「創造」が重い意味を込められている。未来志向としてキーになる言葉といえる。

ただ、これらの「創造」は、早急な教育実践が求められる。教育においても極めて重要で、例えば図工、美術はもともと創造性を求める教科であって、教科の目標に「創造」の言葉が入っている。

興味深いのは高校に新設された「理数」は目標そのものが創造力や創造的行為を目指していることである。次の目標である。「(2)多角的、複合的に事象を捉え、数学や理科などに関する課題を設定して探究し、課題を解決する力を養うとともに創造的な力を高める。(3)様々な事象や課題に向き合い、粘り強く考え行動し、課題の解決や新たな価値の創造に向けて積極的に挑戦しようとする態度、探究の過程を振り返って評価・改善しようとする態度及び倫理的な態度を養う」。

このようにわが国の教育は、「価値創造」に向けて新たな段階に移行した印象が強い。どのような「価値創造」が行われるか、注視したい。

「創造」は学校に定着するか

「価値創造」が未来志向として多く語られるようになったが、「創造」そのものが学校教育にどう定着しているであろうか。

実のところ、ここ7年ほど前から「創造」について語られることが多かった。その発端は、例えば13年に閣議決定された教育基本法の「第2期教育振興基本計画」である。

そこで強調されたのが、新たな社会を構築するための理念として、「自立・協働・創造に向けた一人一人の主体的な学び」であった。

「創造性」の強調は、それが学校教育に反映され、実践化されることの期待がある。日常の教育活動に具体的に展開されることが重要である。だが、それは十分であろうか。学校教育に創造性を発揮できる土壌が醸成されているであろうか。

例えば、学校体制についてよく指摘されることであるが、教員の行動には前例主義や踏襲が多く、新しいものにチャレンジする柔軟性が欠けているとされる。

「創造」は、前例や踏襲を打ち破ることで生まれる新たな価値づくりであって、子供の教育に必要であると同時に教師自身もまた身に付けるべきものである。それは未来志向にとって極めて重要な資質形成である。

今後、どう「価値創造」を生み出すか、その課題追究を多角的に進めたい。