旅と学びの新しい形 PBLを用いたイノベーション教育

教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子

「旅」と聞いて、読者の皆さんは、どのようなイメージを浮かべるだろうか。

地域のおいしいものを食べたり、街を散策したり、買い物したりと、いろいろな楽しみ方を挙げるだろう。今その中に「学び」が加わろうとしている。

課題解決型学習(Project Based Learning)を通じて地域と連動し、地域の課題をくみ取り、改善・解決のアイデアを出していく。今回は、これから注目されるであろうPBL型の旅と、学びの実践例について取り上げたい。

ANA × i・club × 新富町の取り組み

4月3日から2泊3日の日程で、宮崎県児湯郡新富町にて開催された「実践型イノベーション教育」。ANAのデジタル・デザイン・ラボが「旅とイノベーション」をテーマに取り組むプログラムの一つで、東京から、かえつ有明高校の生徒4人と、宮崎県立高鍋高校の生徒8人が参加した。

高校生向けにイノベーション教育を実施しているi・clubと組み、「新富町のお茶のミライをつくるアイデアに挑もう!」と題して、同町にある日本茶を栽培・加工・販売している夢茶房を訪れ、関係者へのインタビューやフィールドワークを通じて高校生たちが課題解決に取り組む。

初日はイノベーションの概念を知るオリエンテーションから始まり、東京と宮崎の高校生が入り交じったチームづくりへ。その後、夢茶房でのフィールドワークでは、起こしたい変化についてワークショップを行う。

2日目は改めて夢茶房を訪れ、これまでチーム内で挙がった疑問点などを率直に夢茶房の経営者に投げ掛けてみる。その後のワークショップを通じて、起こしたい変化を練り上げ、アイデアの中間報告をする。

2日間を通じてi・clubのメンタリングのセッションもあり、アイデアを考える上でつまずいているチームがあれば、そこでヒントをもらうこともできる。

アイデアをまとめ、資料を作成し、3日目はスキット(寸劇)を用いて共有する成果発表会を開催。新富町の花とのブレンド茶や、茶畑の良さを五感を使って味わえる空間を東京につくるなどの提案があった。私も本プログラムに参加し、コンテンツや進行を少し変えれば、高校生だけでなく小学校高学年から参加可能だと感じた。

旅が醸成する力

私自身、旅には多くの学びの要素が入っていると考えてきた。現に、私の子供とは国内だけでなく、北京、シンガポール、ドバイ、デリー、ケアンズなども訪問してきた。特に、21世紀型スキルといわれる、これからさらに必要となる能力を醸成するには、旅はうってつけのツールだと考えている。いくつか例を挙げてみる。

「常識の打破」=旅をすれば、普段のコンフォートゾーンから抜けることになり、自分が住んでいる地域、文化が全てではないと分かる。

「問題発見能力・好奇心」=頭の中に「なぜ?」が生まれ、そのことについて調べる契機になる。

「ダイバーシティ」=新しい文化、例えば方言、食べ物などに触れることは、ダイバーシティを考える機会となり、価値観の軸を増やす。

「ファーストハンド(リアル)の体験」=ネットの情報だけではなく、実際に体験してみることでその情報との違いが分かり、肌で感じる体験が重要だと認識できる。

「論理力、企画力、実行力、リーダーシップ」=スケジュールを組み立て実行し、振り返ることでクリティカルシンキング力にもつながる。

「コミュニケーション力」=初めて会った人との会話を通じて、話すことに慣れる。

「偶発的対応力」=旅にはハプニングがつきもので、100%計画通りにはほとんどならない。ハプニングにどう対応するかが求められる。

「デバイス断捨離」=アナログ時間の楽しさが分かる。前述のプログラムはこれに「アントレプレナーシップ(起業家精神)」も加わる。

無意識の偏見を取り除く

テクノロジー、AIが進展するにつれて、ファーストハンドの体験の価値が今以上に高まる。つまり、机上では得られない、実際に自分の五感を使う体験がより価値を持つようになる。

ネットにある情報は便利だが、一方で事実ではないものも多く含まれる。その情報によって、いつの間にか無意識に偏見がつくられることもある。また、自分の中の情報が古いまま更新されていないことに気付かず、物事を考えてしまうこともある。

『トム・ソーヤの冒険』の著者マーク・トウェインはこう書いている。

「旅は、先入観や頑固な意見、視野の狭さを壊してくれる。人や物に対する広く、健全で、慈悲深い考え方は、地球の隅で一生ぼんやりと暮らしているだけでは得ることができない」

旅の効用は多様だ。

(リクルート次世代教育研究院院長/東京学芸大学大学院准教授)