「令和の教育」を考える アイデンティティーの確立と柔軟な発想で

教育新聞論説委員 細谷 美明

令和という新しい時代を迎え、わが国の教育はどういった展開を見せるのであろう。まずは、平成という時代について、教育を軸に振り返りたい。

私は「カオス―混沌(こんとん)」から「安定」への移行の時代だったと考える。この間、学習指導要領は4回変わった。前半は平成元年版と平成10年版であるが、とりわけ平成10年版は新設された「総合的な学習の時間」に多くの授業時間を配分したことから、学校現場が混乱し学力低下も招いた。これが「カオス」である。

後半では教育基本法などの大幅な改正があり、知識・技能、思考力・判断力・表現力、学習意欲をバランスよく育成することが学習指導要領に明記され、平成20年版と平成29年版が登場した。低下していた学力も再び向上した。戦後続いた「系統主義か経験主義か」の二項対立は終焉(しゅうえん)を告げた。これが「安定」である。

しかし、これでわが国の抱える教育課題が解決したわけではない。この10年間だけでもわが国の社会情勢は「グローバル化」「情報化」「少子高齢化」に代表されるように大きく変動している。

「グローバル化」により多数の外国籍の子供が入学し、言葉の問題をはじめ宗教、生活習慣など教育において「共生」といった考え方が比重を占めるようになった。今後はさらにあらゆる価値観を受容し、かつ対応できる資質・能力が必要となる。

「情報化」(IT技術の急激な進展)により「知識基盤社会」化が進み、広範な知識とそれを駆使できる人材が求められるようになる。教師も知識だけを教えるのではなく、時々の状況を的確に判断し、また知識を効果的に活用しながら、新たな提言ができる子供を指導することが求められる。

「少子高齢化」の中で、持続可能な社会の在り方をさまざまな角度から提言、あるいは行動に移せる能力を持った人材の育成を、学校段階から進めていかなければならない。

そのために必要なのが、アイデンティティーの確立と、柔軟な発想・実行力のある人間の育成である。言い換えれば、人間として、社会人として、日本国民としての主体性を持つことと、あらゆる状況の変化を冷静に判断し適切な行動がとれる能力を備えることである。

これらを具現化するために提案したいのは、語彙(ごい)力を含む言語能力の育成と社会と連携した実学の展開、それを実現するための教職員増員である。

アイデンティティー確立の基本は、自国の言葉を知り使いこなす言語能力である。あらゆる学問の基礎ともいえる。新学習指導要領が提唱する「主体的・対話的で深い学び」も言語能力があって成立するものである。

社会と連携した実学の展開については、学校での学習が実際に社会で役に立つと在学中に体験させることこそ、「生きる力」の育成につながる。現在、国内のさまざまな企業やNPO、自治体が中高生に地域活性、社会創生の提案を求める事業を展開している。「クエストエデュケーション」もその一つだ。

こうした教育を支えるのが若手教員である。彼らの意欲と情熱、柔軟な思考はこれからの教育に必要不可欠である。

しかし、今年度の小学校の教員採用にみられるように、教員希望者がここ数年減少している。「学校のブラック化」が表面化したことも一因と考えられる。

また、彼らを育成する40代の教員の不足も影響を与えている。このままではせっかくの「安定」も再び「カオス」に戻りかねない。

教員の持ち時数減少を目指した教職員定数改善とともに、大量退職が近付いている50代後半の教員の再任用による補填(ほてん)・活用で、こうした状況の打破を図りたいものである。