(注目の教育時事を読む)第61回 OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018

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藤川大祐千葉大学教育学部教授の視点

「閉じた多忙」から「開かれた創造性」へ
◇改善されていない日本の教員の多忙さ◆

本紙1面で報じられているように、文部科学省がOECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018の結果を公表した。

TALISとは、学校の学習環境と教員の勤務環境について国際的に比較可能なデータを収集した調査であり、過去、2008年と13年に実施されていて、今回が3回目となった。

前回13年の調査結果では、日本の教員の多忙さが注目された。

本紙14年7月3日号にも「日本の中学校教員 参加34カ国中で最長勤務」という見出しで記事が掲載され、日本の中学校教員の1週間当たりの勤務時間が53.9時間と参加国・地域の平均38.3時間を大きく上回って最長であったことが報じられている。

この13年調査の結果公表以降、日本の教員の多忙さが注目され、学校における働き方改革などの議論につながった。

そして、まさに学校における働き方改革が実効性を持ったものとなるのか問われているいま、TALIS2018の結果が公表された。この結果も、今後の学校の在り方を巡る議論に大きな影響を与えるものと思われる。

今回の結果は、日本の教員の多忙さが改善されていないことを端的に示している。

中学校教員の1週間当たりの仕事時間は56.0時間に増加しており、今回から調査対象となった小学校教員も54.4時間と参加国中最長である。

中学校教員は部活動に該当する課外活動の時間が参加国平均の約4倍と負担になっており、小学校教員は授業時間が参加国平均より3時間近く長い。

文科省は今年1月の中教審の学校における働き方改革答申を受けた取り組みを強力に推進するとしているが、中学校では部活動業務をゼロにしたとしても1週間当たりの仕事時間が参加国平均より約10時間も長い。

小学校では、学校当たりの教員を増やして授業の負担を減らさなければ目に見える効果は見込めない状況である。

相変わらず午後6時半ごろまで部活動をしている学校がある状況を見ると、中教審答申通りの対応が進められるかどうかも怪しいが、たとえ中教審答申に描かれたような改革が進められたとしても、日本の教員の仕事時間は参加国平均並みにはならない。

新学習指導要領では「社会に開かれた教育課程」がうたわれているが、今回の結果は、日本の教員たちが他国と比較して社会に「開かれていない」ことを示している。

◆職能開発の時間は参加国平均の半分以下◇

日本の教員が職能開発に使う時間は参加国平均の半分以下であり、その内容も書物を読んだり他校を見学したり研修会に参加したりすることが中心で、企業などを見学したりオンライン講座を受けたりする者は少ない。

児童生徒への指導においては▽日常生活や仕事の問題を引き合いに出す▽グループで問題解決をさせる▽ICTを活用させる▽明らかな解決法がない課題を扱う▽批判的に考えさせる――者が少ない。

さらに言えば、全員が理解していると確認されるまで、類似の課題を演習させるという者も少ない。

世界で最も忙しい日本の教員たちは、職能開発においても学校教育の枠内で学ぶことが中心であり、学校外に目を向けて学んでいる者は少ない。いわば社会に対して閉じているのである。

この結果、指導内容を社会とつなげる試みや、アクティブ・ラーニングを進めている者が少なくなっている。それだけでなく、全員が理解するまで演習させることさえ十分に行わず、児童生徒の学力を保障することすら危ういのが現状だ。

多忙であり、かつ社会に「開かれていない」ことは、教員の自己効力感に悪影響を及ぼしていると考えられる。日本の教員の自己効力感は総じて低く、特にICT活用、多様な評価方法、批判的思考を促す、児童生徒に自信を持たせるといった項目で顕著である。

また、文化的に多様な学級における指導についても、よくできていると思っている教員の割合が著しく低い。

◇学校外に開いて余裕を◆

今回の結果は、過去何十年にもわたり、教員がさまざまな課題を押し付けられ、業務が肥大化し、これにより教育の質に深刻な影響を与えていることを示唆していると理解できる。そして、この5年間でも状況は改善せず、むしろ多忙化に拍車がかかっていると考えられる。

すでに、教員の仕事が「ブラック」であるという指摘は広がり、教員養成系大学・学部の受験や教員採用試験の出願を忌避する者が目立つなど、悪影響が広がっている。

学校教育の中に閉じて忙しい教員が、新学習指導要領が求めるような新しい教育を創造的に担うのは無理だ。本来、学校の外に開かれて余裕がある教員でなければ、「社会に開かれた教育課程」を担えないはずである。

「閉じた多忙」から「開かれた創造性」へ。そのためにはまず、大胆な予算措置によって教員の待遇を飛躍的に改善し、併せて授業時間数の大胆な削減などを検討する必要がある。