TALIS2018 他国教員の指導環境を学ぶべき

教育新聞論説委員 細谷 美明

経済協力開発機構(OECD)が6月19日、5年ぶりとなる国際教員指導環境調査(TALIS)の結果を発表した。

本紙の6月24日号においてその概要を紹介したほか、千葉大学の藤川大祐教授が詳しい分析をされた。私は違った視点でこの結果について述べてみたい。

この調査について文科省は「我が国の教員の現状と課題」と題して総括をしている。

第一に「学級において規律が整っており、良好な学習の雰囲気がある」。第二に、「教員の仕事時間は参加国中で最も長く、人材不足感も大きい」。第三に、「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善やICT活用の取組等が十分でない」――としている。

これは私に言わせれば、日本の教員は優秀だが、人材が不足している影響で課題とする自身の職能開発に費やす時間もなく、その結果、自己嫌悪に陥っていると文科省自らが言っているに等しい。

こうした現状や課題に対する文科省の対策は、今年1月に中教審が出した「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」に書かれた内容を示しているにすぎない。

藤川教授も指摘しているが、多忙極まる教員が学校外に出て自己の能力開発にいそしむことは現状では絵に描いた餅である。2002年に小・中学校で導入された総合的な学習の時間は、これまでの教科指導とは異なり、学習内容を示さず生徒の主体性を重視した新しい学習形態であり、準備時間が従来の教科指導よりも多くかかることが分かっていた。

それにもかかわらず導入され、教員の持ち時数の軽減は事実上無視された。以来、わが国の教員は、物理的にも精神的にも大きな負担感を背負って黙々と子供の指導に当たりながら学力を世界最高水準にまで押し上げてきたのである。

新学習指導要領が示す主体的・対話的で深い学びの視点を持った授業とは、乱暴な言い方をすれば、学習内容が示された総合的な学習の時間のようなものであり、生徒一人一人が違った学習方法、学習スタイルで取り組む授業だ。

中学校の国語教師だった、今は亡き大村はまは「子供が100人いれば100通りの疑問を持つ。その100の疑問を想定しその答えをあらかじめ用意するのがプロの教師である」と言い、実際に実行していた。それほどまでに子供主体の学習というのは、指導者にとって莫大(ばくだい)な労力を要するものなのである。

中教審の答申などでも指摘されているが、これからの世界には、過去経験しなかった予想のできない状況が待ち受けている。
つまり、これまでの教育では対応できない社会が到来するのである。そのための新しい教育のビジョンは確かに示されている。だが、それを担う教師が置かれた現在の環境には、新しいビジョンも発想もない。

超過勤務手当支給のための給特法の改正も、教職員定数改善のための義務標準法の改正も、中教審答申の記述にはない。

一方で教員の「反乱」も始まった。埼玉県の小学校に勤務する教員が、1年間の勤務のうち超過勤務に当たる時間の手当240万円を請求する訴えを起こしたのだ。今後、こうした動きが全国で一斉に起きることも考えられる。
かつてわが国は資源・物資・情報が乏しいまま不幸な戦争に突入し、指導者たちは最後に兵士や国民一人一人に対し精神論を振りかざして戦局を乗り切ろうとした。TALISは国際比較調査である。他国の政策に学んで教員の指導環境を構築しないのであれば、あの戦争同様、悲惨な未来がわが国を待つことになろう。