所沢中2男子殺傷事件から学ぶ 全ての大人が子供を育てる認識を

教育新聞論説委員 細谷 美明

埼玉県所沢市で市立中学校に通う2年生男子生徒が、同級生の少年に刃物で刺され死亡する事件が発生した。

市教委によれば、これまで加害者の少年が被害者の少年から「20回ほどつねられた」など、いじめともとれる行為を受けていたという。また、刃物で刺した動機については、被害少年から以前教科書を隠されたことがあり、事件当日問い詰めたが「知らない」と言われけんかになったからだという。

いずれにしても、これまで2人の少年の間で何らかのトラブルが続いていたのは事実であり、詳細は今後の警察や関係機関の聴取などで明らかになるであろう。

これまでも同級生を刃物で殺傷する事件はあった。

今回の事件に類似しているのが、2004年6月に長崎県佐世保市で起きた市立小学校6年生女子による同級生殺傷事件である。

通学する小学校の学習ルーム内で仲のよかった同級生の首と手をナイフで切りつけ殺害したというものである。

加害者の女児と被害者の女児は学校外においてもパソコンのチャットでやり取りするほど親密であった。しかしある日、ウェブサイト上で被害女児から中傷されたことがきっかけで殺意を抱き犯行に至った。

その加害女児がホラー小説の愛読者だったり、事件前日に見たテレビドラマの殺人シーンを参考にしたりしたことから、学校関係者だけでなく社会全体にも大きな衝撃を与えた。

今回の事件も、学校や親が知らない子供だけの世界の中にその原因が潜んでいるかもしれない。

こうした表面には出てこない子供の側面を発見するためには、教師や親だけでなく、より多くの大人が子供と接し、そこから得た情報を共有する機会を意図的・計画的につくるほかないだろう。それにより、子供自身に自己開示させる姿勢をつくり上げていく必要がある。

例えば、学期ごとに担任以外の人間が子供全員の話を聞く教育相談期間を設けたり、道徳の時間などでロールレタリング(役割交換書簡法)を行ったりする方法がある。

さらに、子供の自己肯定感を高めるのも重要だ。

6月に内閣府が発表した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(2018年度)」の結果によれば、日本の子供や若者(13~29歳)は「自分自身に満足している」者が45.1%、「自分には長所があると感じている」者が62.3%、「自分の考えをはっきり相手に伝えることができる」者が46.3%と、調査に参加した韓国や米国など7カ国の中で最低の数値であった。

自己肯定感やコミュニケーション力の低さが相変わらず課題であることを示している。

こうした課題に対し、新学習指導要領も「社会に開かれた教育課程」「主体的・対話的で深い学び」「教科等横断的な学習」といった方針を打ち出している。主体性を育て、多様な人間との交流を図ったり、形成的評価や個人内評価など子供一人一人の成長をみとる学習評価の見直しを図ったりするものだ。

この他にも、自己肯定感やコミュニケーション力を育成する方法はある。

例えば、自分も相手も大切にする表現トレーニング法であるアサーショントレーニングや、衝動的な怒りを抑制するトレーニング法のアンガーマネジメントなどが、最近では学校でも取り入れられている。

佐世保市の事件では、殺人ドラマがきっかけとなったことから、各テレビ局は放送自粛措置を取った。

子供たちによりよく生きる力を育むためには、学校だけでなく全ての大人が子供を育てる認識を持ち、それぞれの立場でできることを実践し共有していく体制が今の日本には必要なのではないだろうか。