(新しい潮流にチャレンジ) 多忙化・授業改善は途上にあり

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

OECD国際教員指導環境調査2018を読む

教員指導環境への国際的な視点

OECDの国際教員指導環境調査(TALIS)2018の結果が公表された。

前回は2014年の発表であったが、そのときのショックは極めて大きかった。「日本の教員の勤務時間最長」「教員の教育指導の自信は最低」という調査結果だったからである。

その調査結果の影響は大きく、周知のように中学校の部活動の在り方が見直され、教員の多忙化軽減に向けた取り組みが始まった。

ただ、多忙化軽減に関する中教審答申が出たのは今年の1月であって、今回のTALISは当然その後の経過を含んでいないために、その結果は前回と同様に「日本の教員の勤務時間は最長」なのは変わらない。職務形態は急には変わり得ないのである。

今回の調査では小学校調査が新たに示されていて、その結果は中学校と同様、1週間当たりの仕事時間は54.4時間と中学校の56.0時間とほぼ同様だったことである。

中学校の場合は課外活動に費やす時間が週7.5時間と参加国中最長であるが、小学校の場合、課外活動は少なく、事務業務(週5.2時間)、授業計画準備(週8.6時間)が最長となっている。事務業務は中学校(週5.6時間)も最長である。

小学校は課外活動が少ないにもかかわらず1週間当たりの仕事量が多いという実態は、わが国の課題として突き詰めて考える必要がある。

特に課題とされるのは、教員の職能開発の時間で小学校が週0.7時間、中学校は週0.6時間にすぎない。調査国平均は週2.0時間である。

一方、校長調査であるが、「児童生徒と過ごす時間が不足」とされるのが小学校で38.3%、中学校は49.1%、調査国平均は23.6%である。

このような国際調査結果をみれば、1月の中教審「働き方改革」答申は十分でないことは確かで、今後継続的に仕事時間の軽減、効率化を進める必要がある。その意味では、わが国の努力が今後どのように数値的に変化するか、期待を持ちたい。

教員の自己効力感の課題

前回「教員の教育指導の自信は最低」とされた授業態度はどう変わったであろうか。

新しい学習指導要領改訂に向けた中教審の答申が出されたのは2016年である。アクティブ・ラーニング(AL)も登場した。その後、ALに関する情報が伝えられ、「主体的・対話的で深い学び」が提示されたが、18年は伝播中の時期でもあった。

そのことがあってか、前回に比べるとやや改善がみられる(図)。かっこ内が前回である。ただ、依然として低い結果である(調査図を若干修正)。

小学校の調査が今回示されているが、中学校よりもややよいものの参加国平均(この場合は中学校)に比べてかなり低い。

この小中学校の結果について文科省は「ただし、このような結果が出た理由として、日本の教員が他国の教員に比べ、指導においてより高い水準を目指しているために自己評価が低くなっている可能性や、実際の達成度にかかわらず謙虚な自己評価を下している可能性がある」と、わざわざ指摘している。

確証があるのだろうか。教員の職能開発ニーズにみられる調査で、「担当教科の分野の指導法に関する能力」は中学校63.5%、小学校60.9%に対して、参加国平均は12.8%である。「担当教科の分野に関する知識と理解」もまた各52.2%と54.2%であるが、参加国平均は11.8である。日本の教員の目指す職能水準は高いといえる。

そこで、日本の教員の目指す高い水準とは何か、それを目指しながら達成不足と考える根拠は何か、授業の在り方に不満があるとすれば何が要因か、など明らかにすべきと考える。自己効力感が軒並み低い、という実態に向き合って考える必要がある。

例えば、「明らかな解決法が存在しない課題を提示する」は価値創造力を高める教育と考えるが、小学校は15.2%、中学校16.1%と低い(参加国中学校平均37.5%)。そのような教育の在り方そのものがわが国の教員はよく分かっていないのではないか。

ともあれ、国際比較によってわが国の教育の実態が明らかになり、新たな改善点を探る糸口を示してくれているが、新学習指導要領の完全実施以後、さらに調査結果がよい方向を示すのではないか、と期待が持てるのである。

新しい教育に向けた取り組み

今回の調査で注目されるのは、いわば新しい教育実践に向けた取り組みである。その一つが、デジタル技術の利用である。

図にも示されているが、「デジタル技術によって児童生徒の学習を支援する(例、コンピューター、タブレット、電子黒板)」の調査結果が、中学校は35.0%で、小学校38.5%である。中学校の参加48カ国平均は66.7%であった。

別な調査項目で「ICTを活用させる指導を頻繁にしている中学校教員の割合」の調査があって48カ国中46位で17.9%であった。OECD平均は51.3%である。1位はデンマークの90.4%である。ICT教育に関して日本は後進国ではないか。

この結果が影響したのか、文科省は6月25日に新しい工程表を示した。それによれば、2025年までに児童生徒1人につき1台、教育用のパソコンやタブレット型端末が利用できるようにするとしている。

文科省はすでに遠隔教育や全国の大学等を結ぶ超高速の学術ネットワーク「SINET(サイネット)」を計画していて、2023年には希望する全ての学校で活用できるようにしたいとしている。パソコンやタブレットの普及が進み、遠隔教育やSINETが普及すれば学校教育の在り方が大きく転換する可能性がある。

また、新しい課題の一つは、TALISで今回新しく調査した「文化的に多様な学級における指導」である。この問題は今後わが国でも重要な課題になると予測されるもので、調査項目の「児童生徒間の文化的な違いへの意識を高める」「児童生徒間の民族に対する固定観念を減らす」「移民の背景を持つ児童生徒を持たない児童生徒が共に活動できるようにする」の3項目は小・中学校共に日本は30%前後であった。参加国平均は70%前後である。

また、「指導を児童生徒の文化的な多様性に適応させる」は日本20%前後。「多文化的な学級での難題に対処する」は日本17%前後である。参加国平均はどちらも60%を超えている。「文化的に多様な学級」の問題は、わが国の教員にとっては一部の地域を除いて未経験者が多いであろう。

ただ、外国人労働者が増加することは確かで、それに伴って外国人の児童生徒へも教室での指導が必要になるであろう。学級での指導の在り方を教員がマスターできる体制づくりが課題である。

今回のTALIS調査は3度目であるが、わが国の参加は2度目で、前回は中学校のみであったが、今回は小学校も参加している。その経過でいえば、この5年間、わが国の働き方改革は十分でなかった。また、授業改善も新学習指導要領への移行期で新しい展開には至らなかったという問題がある。

その意味で、次期調査までの5年間に期待したい。わが国の教育がどう変貌を遂げているか、楽しみではある。