(本紙編集局はこう読む 深掘り 教育ニュース)共通テスト実施への不安

準備時間の圧倒的な不足は明らか

全国高等学校長協会(全高長)は7月25日、2020年1月から始まる大学入学共通テスト(共通テスト)の英語における民間資格検定試験の活用について、不安解消を求める要望書を文科省に提出した。また本紙電子版で実施した「Edubate」の読者投票でも、92%が共通テストへの移行に不安を示している。共通テストについて、今、考えるべきことは何か。

記述式問題と英語の民間検定の活用に矮小(わいしょう)化

大学入試センター試験に代わる共通テストの議論は、政府の教育再生実行会議が「1点刻み」の入試からの脱却を求めた第4次提言(13年10月)からスタートした。

その後、中教審の高大接続特別部会、文科省の高大接続システム会議、文科省改革推進本部「高大接続改革チーム」へと議論が引き継がれていった。議論のたびに、具体的な実施方法の検討が先送りされ、最終的には当初の理想から、かけ離れたものになってしまった感がある。

全高長が不安を示す「読む・書く・聞く・話す」の英語4技能を評価するための民間資格検定試験の活用についても、高大接続システム会議の委員経験者は、「ほとんど議論されませんでした」と証言している。

1点刻みで知識量を問う入試から、思考力などを評価する大学入試への転換が、共通テストの当初の理念だったはずだ。だが、その実現に向けた議論の中で、共通テストの「年間複数回実施」などの議論は早々に消えてしまった。

現在では、国語と数学での記述式問題の導入、英語の民間資格検定試験の活用という二つの問題に入試改革を巡る議論が矮小化されているように見える。

「2年前予告ルール」が無視されている

また、この二つの問題についても不安が高まっている。これまで2回実施された共通テストの施行調査(プレテスト)でも、記述式問題の平均正答率は極めて低い上に、採点体制の公正性に関する疑念も払拭(ふっしょく)されていないのが実情だ。

英語の民間資格検定試験の活用についても、大学入試センターが認定していた民間試験のうちTOEICが今年7月、共通テストへの参加取り下げを表明し、全高長が異例の要望書を出すきっかけとなった。大学入試改革はまだ先のようにも思えるが、対象となる現在の高校2年生が英語の民間資格検定試験を受験し始めるのは来年4月からで、あと9カ月しかない。

一方、大学の対応でも、国公立学校は、ほぼ出そろったものの、多くの私立大学は共通テストや英語の民間資格検定試験の取り扱いをいまだに決めかねている。大学入試の大きな改革には、「2年前予告ルール」の原則があるが、実質的にそれが無視されてしまっている状況だ。全ての面において準備のための時間が圧倒的に不足しているのは明らかだ。

「ターゲットイヤー」にこだわりすぎか

そもそもこうなった原因は、安倍晋三首相の腹心とも言われる下村博文文科相(当時)が、東京オリンピック開催に合わせて、2020年を「ターゲットイヤー」と位置付け、教育再生の工程表を作成したたことにある。その2020年(度)というターゲットイヤーの縛りが、現在の準備不足状態を生んでいるといっても過言ではない。

考えてみれば、大学入試改革と東京オリンピックとは何の関係もないが、大学入試改革の議論が過去何度か挫折した例に見るようにように、大学入試改革はゴールを定めて突き進まないと実現できないような難しい問題でもある。その意味で、下村文科相が当時、2020年をゴールと定めたのは評価できる。

しかし、共通テストの議論がほぼ軌道に乗った現在、ターゲットイヤーの工程表にこだわる必要はないのではないか。大学入試改革の柱である思考力の育成に重点を置いた新学習指導要領が小学校で全面実施されるのは2020年度からで、それで学んだ最初の子供たちが、大学受験をするのはずいぶん先のことである。当然、高校の調査書も思考力などを評価したものに変わってくる。

思考力や英語4技能を重視する大学入試改革の実施も、新学習指導要領で学んだ子供たちが大学受験に合わせた方が筋が通っている。

共通テスト移行についての本紙電子版「Edubate」(読者投票)は、「不安を感じている」92%、「感じていない」3%、「わからない」5%――だった。この圧倒的な不安の声を無視することはできない。