起業家教育 今後さらに重要に

教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子

7月、宮崎県新富町にある一般財団法人こゆ地域づくり推進機構が主催する、公開講座「地域の仕事のつくり方:東京に住みながら地域の仕事をつくる“ローカルベンチャースクール”」にて、地域版MBA講座を修了したローカルベンチャーの起業家らのビジネスプラン発表会に参加し、審査員として約20人、3分ずつのプレゼンを聞いて講評した。

終身雇用が崩れ、個人の「好き」を追求し、スキル、コンピテンシーを高めていくことが必要になってくる社会で、起業家教育というのは今後、社会人にとっても子供たちにとっても、さらに重要になってくる。今回はその一端を紹介したい。

社会人向け起業家教育

日本には「ユニコーン」と呼ばれる「設立10年以内」「評価額10億ドル以上」の「非上場ベンチャー企業」は現在、主にAIによる制御技術の開発を行う「プリファード・ネットワークス」しか存在しない。

一方で、ある調査によれば2018年時点で米国には118社、中国には62社あるとされている。具体的には米国の宿泊シェアリングサービス「Airbnb」、写真共有サービス「Pinterest」、中国のライドシェアサービス「滴滴出行」、コーヒーチェーン「瑞幸珈琲」などが挙げられる。

なぜ日本にユニコーン企業が生まれないかという議論は、これまで散々されてきた。最大の理由は、日本の市場がある程度大きく、最初から海外に向いていないことだろう。そして、日本における「過去の正解が一つしかない教育」にあるのではと考えている。

「過去の」と書いたのは、現在ではその課題が少しずつ改善されてきていると感じるからだ。起業は未知のことばかりで、試行錯誤の連続。失敗も多々生じる。しかし、失敗しても諦めず、いかにその失敗を高速で回せるかに命運がかかっていると言っても過言ではない。

私自身は学校で起業家教育を受けた記憶がない。私と同じような大人がほとんどではないだろうか。社会人になってからでも決して遅いということはない。前述したように、これからは「個」が生きる社会になる。そうなった時に、実際に起業しなくても起業家精神や能力を持っておくことは、その「個」を生かすための糧になるからだ。

冒頭記したように、最近は地域と連携した社会人向けの起業家教育プログラムを散見する。「起業家教育なんて自分とは関係ない」と思わず、一度参加してみてはどうだろうか。

小中学校における起業家教育

起業家教育は、社会人だけではなく子供たちにも必要なものだ。

「起業家教育」というと起業することに直結しがちだが、そうではなく、何かに挑戦する気持ちや探究心などの起業家精神、情報収集して分析し、実行すること、それに必要なリーダーシップ能力など起業家的能力の育成を意味している。つまり、自分が好きなことをこれからの社会で追求していく上で、必要な能力を育むためのものだ。

15年に経産省が全国すべての公立小中学校向けに実施した「起業家教育の普及等に関する調査」では、小学校で14.2%、中学校で24.3%が「起業家教育を実施している」または「実施の予定がある」と回答している。

具体的な取り組みとしては、小中学校ともに「起業家・経営者など外部講師を招いての講演」が最も多く(小学校61%、中学校76% )、次に「起業体験(模擬店舗の出店体験、模擬会社の設立、新商品の開発体験など)」「地域企業・地域団体などとの共同プロジェクト」が続く。起業家教育を導入した際にした苦労は、「外部との連携」「指導内容の検討」が上位を占めた。

学校の外には、さまざまな人材がいる。地域の核としての学校という観点から見ても、学校がハブとなって外部人材との連携を進める良い機会だと捉えたい。

フィンランドにおける起業家教育

フィンランドでは、小学校高学年向けに地域の企業とNPO「Me & MyCity」が組んで行っている。一昨年に現地で視察したが、一度きりのプログラムではなく、1年間かけて行うもので大変充実していた。

授業はまず、レシートの読み方から始まる。レシートには多くの項目や数字が記載されている。物の値段だけではなく税金も記載され、その税金がどのように使われているかを分析する。

フィンランドはそもそも自国市場が小さく、海外を対象にした起業を以前から推進してきた経緯があり、起業家教育に非常に熱心に取り組んでいる。

(スタディサプリ教育AI研究所所長/東京学芸大学准教授)