教科教育としての道徳教育 道徳的価値の視点と枠組みの重要性

教育新聞論説委員 工藤 文三

教科書を用いた授業のスタート

2018年度から、教科としての道徳がスタートし、教科書を用いた授業が実施されている。主たる教材としての教科書の使用によって、教科書を基礎とした指導計画が作成されることとなった。

年間指導計画の作成に当たっては、他の教科などと同様、授業時数との関連で指導事項の配列編成を行い、授業を構成・展開する。この点は全国的な共通性を確保する意味で、15年の一部改訂以前に指摘された、学校や地域間の指導格差を解消するものになりつつあるといえる。

共通性の確保は、地域や各学校、教員の創意工夫を阻害することになるといった批判もあるかもしれないが、さまざまな創意工夫の余地が否定されているわけではない。

今後、教育実践の蓄積と交流が進み、創意工夫を生かした取り組みが推奨されるよう期待する。

教科教育としての道徳科の充実

道徳が教科化されたことにより、今後は教科教育としての研究や教育実践の蓄積が一層進んでいくだろう。

教科教育の研究には、①当該教科の教育的意義や役割を検討する分野②当該教科のカリキュラムの在り方を検討する分野③教材や指導方法、評価の在り方を検討する分野④教員養成や研修の在り方を検討する分野――などがある。国語や社会、数学、理科その他の教科などの研究には、長い経験と蓄積がある。

①の教育的意義の検討とは、学校の教育活動において道徳科が育む資質・能力の意義や、他の教科などとの相互関連を指している。

②のカリキュラム研究は、目標を実現するための指導内容の選択と配列・編成に関する検討である。妥当性、適時性、一貫性などの視点が用いられる。

③の教材や指導方法の研究は、道徳科の目標および扱う内容を踏まえた、教材や指導方法の在り方、開発に関する検討である。そこでは、目標・内容にふさわしい教材の条件や教材化の方法が検討される。指導方法については、児童生徒の学習活動を含む授業の構成と展開の在り方を検討する。

これらの研究の基盤は、学習指導要領と教科書、教材、授業実践の記録である。教科化されたことによって教科書という共通の基盤が与えられた意味は大きい。

指導力の向上と道徳的価値の素養

指導力とは、教科の目標・内容・教材・指導方法・評価を一連のつながりとして捉え、児童生徒の実態や特性などを踏まえ、計画と実践を不断に改善していく力量をいう。道徳科は学級担任が授業を行うに当たり、指導の専門性の在り方が課題になる。

指導力の要素には、指導内容の基礎的な知識と素養、教材化やその活用力、授業の構成・展開に関する力量などがある。これらの中で、指導内容の基礎的な知識と素養とは、例えば社会科であれば地理や歴史に関する知識や素養、理科であれば科学的知識や素養を指す。

これらの知識や素養は関連する図書などから学習することで得られる。教科の教育は、教材や指導方法の力量だけでなく、内容に関する知識や素養が欠かせない。

道徳科の場合の指導内容は、道徳的価値に関する素養を指す。教師が道徳的価値の基本的な視点や枠組みを理解していることが、教材の活用や指導の前提として必要である。この点が他教科と異なる道徳科教育の課題であると考える。

道徳的価値の原型は倫理学や哲学の領域にあるが、それらに通じるのはなかなか難しい。

できることは、教師自身が行為や事象を、道徳的価値の視点から捉えたり、考えたりするのに慣れ通じることである。