8050問題と不登校 「失敗すればするほど幸運は来る」

教育新聞論説委員 細谷 美明

少々旧聞に属するが、6月に農林水産省元事務次官の男が44歳の長男を自宅で殺害する事件が発生した。長男が長く引きこもり状態だったため、この事件とは別に「8050(ハチマルゴーマル)問題」が注目されるようになった。

「8050問題」とは、子供が若いときに引きこもりとなり、その長期化によって将来、親の介護や家族全体の生活困窮などの新たな問題が発生することであり、親が80代、子が50代になったときに問題が深刻化するためそう呼ばれている。

今年3月に厚生労働省が発表した40~64歳までの「引きこもり中高年」の数は61万3000人となり、国も対策に乗り出す姿勢を示している。

気になるのが、引きこもり中高年と中学・高校生の不登校、さらに20代のニートとの関係だ。

例えば、2002年の中学生の不登校生徒数は約10万5000人で、15年後の17年の25~29歳の若年無業者(ニート)の数は約17万人である。

また、14年に文科省が発表した「不登校に関する実態調査―平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書―」によると、中学3年生のときに不登校だった生徒のうち、卒業後に進学も就職もしなかった生徒は8%だった。一方で高校に進学した生徒は81%いたが、そのうち14%が途中でやめている。

このほか、不登校と引きこもりの関係についての諸研究を見ると、不登校だった生徒の一部がそのままニートとなり、引きこもりとなる傾向が論じられている。

一説によれば、10代の青年期までに自分に関わる諸問題を処理する能力が備わっていないまま社会生活に加わると、自分にかかる責任を回避しようと周囲から逃避し自分だけの世界に入り込む姿勢が出てくるという。つまり、問題解決能力が不十分なまま学校生活を終えることは引きこもりを生む原因を作るということになる。

ただ、不登校、ニート、引きこもりについて共通して言えるのは、その原因が何であれ、本人に人間関係構築力と社会参加の意欲がなければ、それぞれの問題の解決には至らないことだ。

これまで学習指導要領で示されてきた「生きる力」の理念は、こうした問題の解決にも通じているし、これからも維持し続けるべきだ。

新学習指導要領が今後本格的に実施される時期だからこそ、各学校は社会生活に積極的に参加する人間作りを実践面でどうすればよいのか考え直す必要があるだろう。

そこで提案したいのが、「失敗から学ぶ」指導である。引きこもりの原因はさまざまであるが、そのきっかけは仕事などでの挫折が多い。

引きこもりになる人間は失敗することに慣れていない環境で育った人間が多いともいう。

教科や道徳、特別活動、総合的な学習の時間などにおいて失敗事例を提示し、それを分析する事例研究の手法を取り入れたアクティブラーニング型の授業や、同じ失敗を繰り返さない方法の話し合い活動などを計画的に取り入れる。

また、指導する教師も子供の失敗を慰めるのではなく、失敗したことを褒め、それを冷静に分析する態度を身に付ける指導や、ポートフォリオ評価のように自己の振り返りをさせながら教師が適切なアドバイスをする評価活動を忘れてはいけない。

ノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授は、iPS細胞の発見まで多くの挫折を繰り返し、一度はうつ状態にまでなったエピソードは有名である。

彼がよく使う言葉「失敗すればするほど幸運は来る。若い間に、いっぱい失敗して、挫折してください」を子供たちに、そして「Vision & Work hard」を教師たちに贈りたい。