(新しい潮流にチャレンジ)2023年―新たな教育の転機になるか

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

遠隔教育が学校教育を変える

遠隔教育の浸透への期待

2030年に向けて文科省はSociety5.0を目指した教育の実現を考えているが、そこに至るプロセスで遠隔教育の浸透が現実味を帯びてきた。文科省が今年3月に明らかにした「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」の中間まとめである。

それによれば、23年までに遠隔教育を希望する学校に全て提供するというのである(詳細は本紙5月30日付)。その遠隔実施の対象として、例えば小規模の学校同士をつないだ合同授業、外国人児童生徒への日本語指導、病気療養児などに対する指導を挙げている。8月には「最終まとめ」も発表された。

この遠隔教育の構想で強く感じるのは、これまでの学習弱者のような存在によりよい学習ができる道を開こうとしていることである。

それは子供一人一人のペースで学べるような仕組みであるが、通常の学校教育への遠隔教育に比べて同じ個別対応でもかなり難しいのではないか。個々の子供へ学習情報を送ることが可能になるのは、通常の学校への遠隔教育が可能になった上で、もしも23年にそれが実現すると学校教育の大きな転機になると考える。

その場合、国立情報学研究所で進めるSINET(サイネット)が中心的な役割を果たすであろう。SINETは最高速回線と最新ネットワーク機能で大学や研究機関の通信環境を高度化するとされるものである。

SINETの学校活用に熱心な東京大学・五神(ごのかみ)真総長は次のように述べている(日経新聞1月9日付)。「(SINETは)高度の情報教育にも活用できる。全国の学校が大学と連携して実際のデータを使って統計の演習をしたり、大学の教員がオンラインの講義を配信したりといった取り組みが考えられる。最近の大学は市民向けの講座を開くなどアウトリーチ活動に熱心で、コンテンツも豊富にある。例えば社会科の授業でも、各地の学校をつないでそれぞれの地域の問題についてリアルタイムで話し合えば、地域の個性が実感できる。何千人という子供を集めたデータを集約し、分析するような授業も考えられる」。

このようにSINETはこれまで教室内に留まっていた教育活動を、校種を超えた、さまざまな形で実施できる可能性がある。それが実現可能性を帯びてきたのである。

遠隔教育実施に伴う多様な課題

遠隔教育はこれからの学校教育を豊かにする可能性が大きい。だが、現実には多くの課題がある。その主要な課題は学校の通信インフラ整備が遅れていることである。

政府が目指す全国の学校の3クラスに1クラス分のパソコン導入は、現状で約185万台の不足とされる。文科省の調査では、全国の市町村の4分の1に当たる教委が、実施したいがノウハウがない、コスト面で難しいと回答しているという。ICT教育については保護者の関心はかなり高いものの、学校や教委の関心がかなり低い地域がみられるといった調査結果もある。予算がネックになっている。地域格差が極めて大きいのである。

教育長が熱心でも予算化が難しい例がある。例えば、さいたま市は指定都市の中で学力が高く、多様な課題について熱心に取り組んでいるが、ICTの導入をさらに拡充したいと担当者がかなり苦労した様子がみられる(『VIEW21』ベネッセ教育総合研究所、2018 Vol.3)。

同市は01年度からデスクトップ型のパソコンを導入をしていたが、持ち運びが難しいため14年度から順次タブレット端末に入れ替えている。しかし、十分ではない。そこで、ICT教育の必要性を首長部局や議会に説明するためにICT教育推進係が、いくつか方略を立てている。

まず、新学習指導要領に基づくこれからの教育に必要なICTの根拠の明確化と小・中・高校各1校による研究指定校の使用実績に基づくデータの提供である。

特にタブレット端末を活用した授業における児童の変容を小学校3年生の理科で計測し、子供の「批判的思考」や「表現力」など7つの項目について継続的なデータ収集を行い、その効果を実証している。

そのデータは議会向けの資料でもあるが、これからの教育実践にも有効に活用できるものであって、カリキュラム・マネジメントの在り方に影響を与えそうだ。このような教委の努力は説得力がある。

ただ、多くの地域はタブレットの導入に躊躇(ちゅうちょ)しているのが現状であるため、教師達がICTを導入したくても肝心の機器が導入されないという課題は大きい。その学校格差はいつまで続くのか。ICT機器を安く入手できる方策が必要である。

一方、タブレットなど機器が導入されても教師が容易に活用できない、という課題が生まれる。「どう実施したらよいか、分からない」という授業の在り方の問題である。特にSINETの場合がそうであろう。

SINETはトライアル実施校を募集し、先行実施を重ねながら学校の活用度を高める期間を21年度末までに設定しているが、22年度の本格実施は可能であろうか。

2023年は教育の大きな転機になる

もしも文科省のもくろみ通り、23年に遠隔教育やSINETが希望する学校全てに活用できるようになれば、教育の在り方が大きく転換すると考える。

これまで学校は教師と子供のみの相互関係の中で、教科書を仲立ちにしながら学習が行われてきた。これからは、そこに外部からの教育情報が入り込み、学習形態が多様化する。子供が望めば最先端の情報にアクセスすることが可能になる。授業では地域内のみでなく、国内・国際的な課題などを他校と交流しながら学ぶこともできる。

そこで新たな課題が生まれる。遠隔教育やSINETは確かに有用であるが、どのような学習内容をどう選び、子供にどう学ばせるか、という学校で編成する教育課程の課題である。これまでのように教科書カリキュラムでは十分ではない。自校にとって必要で適切な学習はどうあるべきか、という新たな教育方略が必要になる。

遠隔教育やSINETが学校教育を補完するのみでなく、それぞれの学校が新たな教育構想を持つことを可能にする。そこで自校に適切な教育課程を編成する各学校の役割が重要になる。

恐らくは子供に学ばせたい、チャレンジさせたい学習内容は大きく膨らむであろう。果たして学校は、そうした新たな教育の動きに対応できる力を保持できるであろうか。

しかし、Society5.0の時代を迎えて、変わる教育は必然である。23年に向けて遠隔教育やSINETの実施が各学校に定着すれば、必然的に学校の教育課程や授業の在り方が大きく変わり得る。その23年は極めて近い未来である。学校の体制もまた変わるべきである。

その意味でも、変わる教育の在り方の具体的な情報を学校や教師に分かりやすく伝える工夫が必要である。近未来の教育について学校や教師にとって現実的な課題としての自覚を持つことが重要であると考える。