(新しい潮流にチャレンジ)オーセンティック・リーダーシップの課題

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

自分なりの価値観を持つ意味を探る

今求められるリーダーシップとは

Society5.0に向けて社会が従来と異なる変貌を見せるとき、組織のトップに立つ存在はどのようなリーダーシップを発揮すべきだろうか。端的にそう問い掛けてみる。

実のところ明確な答えは返ってこないのであるが、最近、世界の企業者の中でオーセンティック・リーダーシップが流行しているようである。「AUTHENTIC」と言えば「本物の」「真正な」「確実な」などの意味があって、「これぞ本当のリーダーシップ」を思わせるが、この場合は「自分らしさ」の意味だという。そして、オーセンティック・リーダーシップはいまや鉄則になっているとされる。なぜ「自分らしさのリーダーシップ」が求められるのか。

それを考えるために、従来におけるリーダーシップを振り返ってみたい。実のところそのスタイルはかなり多様で、説明は簡単ではない。

私の好きな理論は、例えばマクレガーのX理論・Y理論、三隅二不二のPM理論、コンティンジェンシー・セオリー(状況理論)など多様にあるが、最近ではサーバント・リーダーシップもある。むしろ、無数にありすぎると言える。

そうしたリーダーシップ理論は、具体的な組織の目標達成と結び付いていて、必要なセオリーがある。それは、①明確なビジョンがある②その目標達成に向けてリーダーの信念がある③リーダー自らが行動力を持つ④コミュニケーションを重視し、理解徹底が図られる⑤決断力など、その場に応じた判断が適切である――などである。

こうしたことは、リーダーシップの考え方としてよく語られる。さらに私が重視したいのは、変動する社会への対応力として、⑥未来に組織を持続させようとする力を持つ――である。このような力を持つことに努力しながら、リーダーシップを適切に発揮する。

オーセンティック・リーダーシップとは何か

そのようなリーダーシップ論が多様にありながら、さらにオーセンティックである必要は何か。

最近の図書『オーセンティック・リーダーシップ』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編、ダイヤモンド社、2019)を読むと、AIなどを含めデジタル機器の普及による機械化が、データなどを駆使して、高度な判断までも委ねることに対する、起業家としての人間性の回復があるのではないか。それをさらに積極的に展開することで、リーダーシップの在り方を「自分らしさ」と共に「真正な」ものにする動きなのではないか。

この図書の解説的な文章を中竹竜二氏(チームボックス代表)が書いている。中竹氏は早稲田大学蹴球部の監督としてチームを優勝に導くなど実績を上げたが、「人前で涙を見せ、売られた喧嘩(けんか)は避け、弱音を吐いた」という。

その中竹氏がリーダーシップは多様にあるとしながら、これまではリーダーの行動パターンやその影響力、メンバーとの関係構築などに注目が集まっていたという。

リーダーの言動に関する「WHAT」(何を)や「HOW」(どのように)が中心で、外側に向いていたのである。最近は「WHY」(なぜ)が重視されるという。それは自分自身に向けられていて、「自分らしさを貫く」ことを最も重視するリーダーシップ論である。自分らしさを軸に、自らの目標に情熱的に取り組み、自らの価値観をぶれなく実践していくことである。

その「自分らしさ」をどう自覚するのか。人々の価値観が多様化し、社会の変動が加速している今日、誰もが身近な環境の中でさえ自然体でいることが難しくなっている。そのため、誰からも批判されないように、いつも身構えている。中竹氏は次のように書いている。

「我々は、表面的な振る舞いや体裁を気にしたリアクションをするリーダーには、心を揺さぶられることはない。なぜなら、人間はそれを無意識のうちに見抜いているからだ。最悪なのは相手から見抜かれていることに気づかず、ましてや、自分が表面的であることにさえ気づいていないことだ」

だが、「自分らしさ」を貫くことは難しいことではないのか。

根源的な自分らしさを知るには、高い自己認識力(セルフ・アウェアネス)が必要だ。そのための有効な方法の1つは、「自分をさらけ出す」こと。特に、弱みを隠すことなく、恥を素直に認め、周知していくことだ、という。

これまでのリーダーのパワーの変遷は、体力・武力から始まり、情報・知識や技術、そして今やコミュニケーション能力やネットワーク構築力へと移り変わってきたが、これからの時代は、「自分をさらけ出す勇気」が1つのキーワードになるだろう、という。

中竹氏は、「他者に弱さを見せることは、恥ずかしいし、危険なこと。一方で、誰もが認めるその怖さ(=障壁)を自ら打ち破る勇気こそ、裏返すと『強さ』の象徴とも言えるのだ」と。自分の心からやりたいことに首尾一貫して自分らしく突き進む姿は、リーダーだけでなく、誰にとってもパワフルに感じるはずだ、と。

オーセンティック・リーダーシップの課題

オーセンティック・リーダーシップは、ハーバード・ビジネス・スクールのビル・ジョージ教授によって提唱された新しいリーダーシップ論で、次の5つを要素として挙げている。①自分の目標を明解に理解している②自身のコア・バリュー(中核となる価値観)に忠実である③情熱的に人をリードする④人とのリレーションシップ(人間関係)を構築する⑤自身の規律を守る――の5つ。

リーダーシップは、これまで特定の優れた人物が行えると考えられてきたが、時代の変化とともに組織を動かす人物が必要とされる在り方へと変わってきたといえる。誰もが志向するリーダーシップの在り方である。

その意味で、組織のリーダーとしての人物がどのような行動や振る舞いを身に付けるべきか、というオーセンティック・リーダーシップが提唱されたのである。

その基本は、①周囲・環境に影響されず、自身が正しいと思える価値観、倫理観に沿って行動できる②周囲のメンバー(上司・部下にかかわらず)に本音で語りかけ、自分を偽らず本音でリードしていく③周囲とのリレーションシップを作り、大切にしていく④自分を尊重し信じており、同時に自分を律し学び続ける(成長し続ける)姿勢を持ち続ける――である。

そのためには、自分の行動を振り返り、自己理解を促進するなど、関わる人々との関係性をよいものにする努力が必要である。

オーセンティック・リーダーシップに弱点がないか、と言えば、失敗例もみられるという。それはリーダーになりたてのころ、自分の「弱さ」を正直に吐露したために、部下から「頼りない」と判断されて、組織がまとまらなくなったとされる。

ところで、オーセンティック・リーダーシップは、教師と子供との関係に生かせないであろうか。子供を指導するとき、教師は時に自分の「強み」も「弱み」をある程度見せながら人間的に振る舞うとき、むしろ子供との間に望ましいリレーションシップが生まれ、学級が活気づくのではないか。

それは、校長のリーダーシップも同様である。教員たちが校長の「自分らしさ」に触れたとき、そこに共感が生まれ、組織の雰囲気が柔らかくなり、教育活動が促進されるのを見いだすことができるのではないか。