キャリア教育の充実 軸となるキャリア・パスポートの留意点

教育新聞論説委員 寺崎 千秋

学校現場では新教育課程全面実施に向けた最終準備としての指導計画作りが本格化していることであろう。その重要な視点の一つにキャリア教育の充実がある。

キャリア教育について新学習指導要領総則は、「学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること」を求めている。

要となる特別活動では、学級活動に新しく「内容(3)一人一人のキャリア形成と自己実現」を位置付けている。これを軸に、全教育活動を通じた教科等横断的なキャリア教育の推進が求められている。

指導に当たっては、「内容の取扱い」において「学校、家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活への意欲につなげたり、将来の生き方(在り方)を考えたりする活動を行うこと。その際、児童(生徒)が活動を記録し蓄積する教材等を活用する」ことを求めている(かっこ内は中学校)。

この「活動を記録し蓄積する教材等」として「キャリア・パスポート」が導入され、本年3月29日付で文科省は事務連絡「『キャリア・パスポート』例示資料等について」を各都道府県教育委員会などに出した。

キャリア・パスポートの目的は、「小学校から高等学校を通じて、児童生徒にとっては、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐもの。教師にとっては、その記述をもとに対話的にかかわることによって、児童・生徒の成長を促し、系統的な指導に資するもの」と示している。実施時期については、2020年度4月から全ての小、中、高等学校において実施、としている。

この事務連絡では別添に様式例を示しているが、あくまでも例示とし、「国や都道府県教育委員会等が提供する各種資料等を活用しつつ、各地域・各学校における実態に応じ、学校間で連携しながら、柔軟な工夫を行うことが期待される」とし、最終的には各学校が教育委員会の方針や連携する学校間での共通理解を元に創意工夫するよう促している。

したがって、これからの半年ばかりの過程において、キャリア・パスポートの記録や活用を家庭とも連携してどのように進めるかを指導計画に位置付ける必要がある。

キャリア・パスポートの記録や活用に際して事務連絡には「指導上の留意点と管理」が示されている。重要な内容であり、十分に参考にして実施するようにしたい。

キャリア教育の現状について、MP人間科学研究所代表の榎本博明氏が「夢」を追わせる「キャリア教育」の弊害を論じ、「目の前のやるべきことに没頭する力がなによりも大事」と主張していた(『教職研修』19年2月号)。

生物学者の福岡伸一青山学院大学教授は、教育調査研究所主催の教育展望セミナーでの講演「生命を捉えなおす 動的平衡の視点から」において、昆虫への興味・関心から生物学へ、そしてフェルメール好きに至った話の最後に、子供たちへのメッセージとして「原点を忘れないこと、趣味を持ち続けることが大切」という趣旨の話をした。

両人の話を踏まえると、子供が希望や目標を持ちながら、目前のことに全力を傾けることが未来を切り開く力になっていくのではないかと考えた。キャリア教育の充実、キャリア・パスポートの記録・活用に際して、こうした視点を見失わないようにしたい。