(本紙編集局はこう読む 深掘り 教育ニュース)共通テストへの不安解消

子供のための入試改革となるように

2020年度から始まる大学入学共通テスト(共通テスト)の英語で導入される民間の資格検定試験(民間試験)の活用に対する不安の声を解消するために文科省は8月27日、「大学入試英語ポータルサイト」を開設した。しかし、これで関係者や受験生の不安は本当に解消されるのだろうか。高校関係者と文科省とのすれ違いの原因は何か。

民間試験活用に関する不安が

現在の大学入試改革は、単なる知識量よりも思考力・判断力・表現力などを評価することを狙いとしている。これに対応するのが共通テストの国語、数学での記述式問題の導入だ。英語では、「聞く・読む・話す・書く」の4技能の力を判定するため、大学入試センターが認定した民間試験を活用することになっている。

ところが、民間試験の実施団体の対応の遅れなどもあり、最初の対象者となる現在の高2生は、来年4~12月の間に民間試験を受験しなければならないにもかかわらず、会場・日時など民間試験の実施情報が高校現場にほとんど伝わっていない。さらに認定されていた民間試験の一つであるTOEICが、今年7月に共通テスト参加を取り下げるなどの混乱もあり、全国高等学校長協会が民間試験活用に関する「不安解消」を求める異例の要望書を文科省に提出した。文科省は「真摯(しんし)に対応し、情報周知に努めたい」と回答し、その答えの一つがポータルサイトの開設だったというわけだ。

全高長の要望書と文科省とのすれ違い

だが、実際のポータルサイトを見れば分かるが、高校関係者の不安解消につながる内容ではない。民間試験の会場・日時など具体的実施情報は全くなく、制度の説明など役所の公式資料を長々と載せているだけだ。この対応は、明らかに高校関係者が求めたものとは異なる。

実は、同様のすれ違いは少し前にも起きている。今年7月にNHKが共通テストの記述式問題の採点は「学生バイト」が行うと報じた。これに対して大学入試センターは7月12日、採点を委託業者には「厳正な審査を行って採点の適性がある採点者を採用すること、採点者に対して事前に十分な研修を行うこと、複数の視点で組織的・多層的に採点を行う体制を構築すること、等を求めていく予定」とホームページで説明した。

人生を左右するかもしれない入試の答案を学生バイトに採点されるのはいやだという保護者や受験生の思いに対して、記述式問題採点の民間委託が決まった段階で、大量の臨時雇用者が作業を行うのは自明だったはず。それを今になって批判されても困るというニュアンスがHPから伝わってくる。

そして全高長の要望書も、英語民間試験活用に関する「不安解消」を求めているものの、その意味するところは、民間試験活用の導入延期であることは明白だ。これに文科省は、丁寧に情報周知をするポータルサイトを開設という形で答えた。やはり両者の思いは、すれ違っていると言わざるを得ない。

子供の人生を左右しかねない大学入試

両者すれ違いの原因は何か。それは、大学入試改革の目的に関する意識の違いだ。大学入試改革に対して、高校関係者や保護者などは、受験競争の緩和や公平性・平等性の確保など「子供のための改革」という視点を持つ。そのため混乱が予想されれば、改革延期もやむを得ないという立場を示す。

これに対して、今回の大学入試改革の発端となった政府の教育再生実行会議の提言は、高い思考力と英語能力を併せ持つグローバル人材を育成しないと日本経済は国際競争に敗れるという強い危機感を表明している。つまり、今回の大学入試改革の目的は、「子供のため」ではなく、日本経済を救う「グローバル人材」の育成のためだ。それには大学入試改革を早急に断行しなければならず、実施延期は論外となる。

共通テストの記述式問題採点や英語の民間試験の活用などを巡る、教育関係者や保護者と、政府や文科省との間のすれ違いは、このような意識の違いが原因となっているといえる。

もちろん、現在の大学入試が、グローバル化や人工知能(AI)時代の人材育成を阻害していることは否定できない。大学入試が変わらない限り、思考力の育成や「主体的・対話的で深い学び」などを重視する新学習指導要領もうまくいかないだろう。

しかし、大学入試は子供の人生を左右しかねない問題だ。多少の混乱は仕方ないという姿勢で、済ますことはできない。高校の新学習指導要領は、22年度入学者から年次進行で実施される。その子たちが、大学受験をするのは24年度(25年度入学者入試)だ。それまで一部実施を延期すれば、英語の民間試験活用も記述式問題採点の課題も関係者の理解を得る程度には解決できるだろう。入試改革は、「子供のため」の改革でなければならないはずだ。

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