(新しい潮流にチャレンジ)教師の専門的職能は高まるか

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教育創造研究センター所長 髙階玲治

自己研修時間の確保が重要

変わる教育と教師の資質向上

「新しい時代の初等中等教育の在り方について」文科相が中教審に諮問した(4月17日)。主要な課題の中に「質の高い教師の確保」がみられる。今後の極めて重要な課題である。

周知のように、最近の傾向として教職志望者が激減しているだけでなく、現在の教員の約4割が50代と言われる。大量退職の時期とSociety5.0と言われているデジタル社会が重なる。

文科相の諮問のすぐ後で、自民党の教育再生実行本部は第十二次提言を行っている(5月14日)。この提言もまた教師の資質向上に関することが主要な内容となっている。

その論点整理では、極めて重要な事象として2つ挙げている。1つ目は、Society5.0の到来による指導技術の変化に対応して、社会人などを積極的に活用することが求められるという。2つ目は、教職希望者激減の現状から、教職が尊敬されるよう魅力を高めるために教師の職能成長を図る体制の構築と、多くの人が教職に参入しやすい環境を整える必要があるとするものである。

今後は、中教審を中心に、質の高い教師を確保するために、養成・免許・採用・研修・勤務環境・人事計画などの在り方全般の検討だけでなく、外部からの多様な人材によって教職員組織を構成できるように、免許制度などの改善が行われるであろう。

これからの教職員組織についての中教審の抜本的な改革を期待したいが、実のところ学校の実態は極めて憂慮すべき状況がみられることに目を向けたい。

教職開発活動の時間が全く足りない

Society5.0に向けて、学校の教育基盤の安定と革新的進化が必要であるが、現状は極めて厳しい状況にある。例えば、次のような実態がみられる。

①小中学校共に教員の1日11時間近い勤務が日常化している。学校の働き方改革は十分な効果を上げていない②英語教育の展開、ICT・プログラミング教育の導入など、複雑化・困難度が増大していて、それに伴う力量形成が遅れている③テクノロジーの教育の導入が叫ばれながらデジタル機器の導入が遅れている。地域格差、学校格差が大きい④「社会に開かれた学校」や「コミュニティ・スクール」の展開は、地域教育の広がりの期待があるが、教員の負担増になっている面がある⑤学校の過重な勤務を問題視しながら、教員を増やす声が少しも聞こえてこなかった――などである。

ただ、小学校高学年の教科担任制実施が俎上(そじょう)にのぼり、来年度予算に教員加配の要求が盛り込まれた。ぜひ、実現してほしいものである。

このようなわが国の実態について、極めて重要な調査結果が示されている。OECDのTALIS2018調査である(国立教育政策研究所『教員環境の国際比較』ぎょうせい2019)。

その調査は、TALIS2013年調査と同様に、「日本の教員の勤務時間最長」「教員の教育指導の自信は最低」を示していた。中学校の勤務時間は56.0時間(前回は53.9)で調査国中最長、小学校は今回初めての調査であるが54.4時間で最長であった。教員の教育指導についても若干改善された程度である。

ところで、注目したい調査結果がある。「日本の小中学校の教員の職能開発活動に使った時間は参加国中で最低」というものである。

その時間は、日本の小学校0.7時間、中学校0.6時間、参加国平均(中学校)は2.0時間であった。1週当たりの時間である。「職能開発に使った時間」、つまり教員の能力向上に使った時間が、わが国の場合、このように少ないのである。

勤務時間全体からみると、さらに異常なほど少ない。調査国全体の勤務時間は中学校38.3時間であって、その中での2.0時間が確保されている。割合で言うと5.2%である。わが国の勤務時間は小学校54.4時間、中学校56.0時間である。小学校の割合は1.3%、中学校はさらに低く1.1%である。職能向上の時間がいかに少ないかをこの数値は示している。

わが国はこのままの状態でSociety5.0を迎えるのであろうか。

職能向上に週2時間プラスの時間確保を

OECDのシュライヒャー教育・スキル局長は、今回のTALIS2018調査を受けて、日本の教員の自己評価の低い理由について、「相関関係があるとは言い切れない」としながら、授業のほかに部活動や学校運営など、多くの業務を担っているため、あれもこれもと期待が大きい分、「すべてのことについて達成できていない」と思うかもしれない、と語っていた(朝日新聞、2019年7月7日付)。

シュライヒャー局長は、「教員の能力向上のために職能開発の機会を増やすこと」「給与を上げて魅力ある職場にすること」にも触れていた。TALIS調査は、わが国の特異な面を浮き彫りにしてくれている、と考えれば、そこに新たな視点が生まれる。

つまり、「すべてのことにおいて達成できていない」ならば、日本の教員がそれぞれの職務において目指す高い水準とは何か、を考えたい。特に、学習指導の在り方に不満があるとすれば何が要因なのか、などを明らかにすべきであると考える。

例えば、教員の職能開発ニーズに関する調査で、「担当教科等の分野の指導法に関する能力」は小学校60.9%、中学校63.5%、に対して、参加国平均(中学校)は12.8%である。「担当教科等の分野に関する知識と理解」もまた、各54.2%と59.2%であるが、参加国平均は11.8%である。つまり、日本の教員の目指す職能水準は高いのである。職能水準が高いことから自己評価が低い結果になり、そのため「教員の教育指導の自信は最低」となったのではないか。

しかし、そうでありながら先のデータのように、職能開発活動の時間が極端に少ない。このジレンマを克服できない限り「自信は最低」が続く。これは、新たな教育に向けた改革もまた容易に進まないことを意味する。Society5.0を目指す教育改革に向けて、何よりも教員個々の職能開発の時間を確保すべきである。

参加国平均の週2時間と言わず、さらに増加を期待したい。少なくとも2時間プラスである。特にわが国の授業研究の質的レベルは諸外国から高く評価されている。それが現状では十分に時間が確保されていない。

例えば、TALIS調査に教師の授業の在り方として、「明らかな解決法が存在しない課題を提示する」の項目があるが、その意味は価値創造力を高める教育と考える。

だが、日本の小学校は15.2%、中学校16.1%と低い。参加国中学校平均37.5%である。そのような教育の在り方そのものがわが国の教員はよく分かっていないのではないか。さらに、新しい教育実践に向けた取り組みとしてデジタル技術の利用がある。「デジタル技術の利用によって児童生徒の学習を支援する(例、コンピュータ、タブレット、電子黒板)」の調査結果が、小学校38.5%、中学校は35.0%である。中学校の参加国平均は66.7%であった。

別の調査項目「ICTを活用させる指導を頻繁にしている中学校教員の割合」では48カ国中47位で17.9%であった。OECD平均は51.3%で、1位はデンマークの90.4%である。学校教育にテクノロジー導入が叫ばれながら、これがわが国の実態である。文科省は、この調査結果を受けて2025年には、子供一人一人にタブレットなどを持たせたい、という目標を急きょ示している。

ただ、一方では、教育へのテクノロジーの普及によって教員研修も大きく変わることが期待される。例えば、MOOC(Massive Open Online Course)がある。大規模公開オンライン講座である。

この研修では、教員がいつでもどこでも一流大学などが提供する研修内容を受講できる。受講料が安く、出張しなくともよいから、職務への影響が少ない。いくつもの単元に分かれているので、必要と考える内容を選んで、いつでも受講できる。

MOOCの早急な普及を期待したい。

現実的には、新たな教育には、それを支える教員の専門的力量が必要であるから、職能向上に週2時間プラスを実現させたい。学校の「生産性を高める」ことが最も重要であるが、働き方改革もまた職能向上の時間を確保する形で進めるべきである。緊急な課題といえる。