今こそ大人も学ぶ機会を リカレント教育の今後

教育新聞特任解説委員 小宮山 利恵子

人生100年時代。テクノロジーの進展もあり、仕事ができる健康寿命も80歳まで延びると言われている中、社会人の学びはこれまで以上に重要になってくる。新しいことを学び続けていれば、自分の職がどれくらいテクノロジーに取って代わられるかも理解できるだろう。

一方で、日本は終身雇用が継続されてきたため、社内の研修が全てという環境が普通だった。そのため個々の自発的な学びにはつながっていない現状がある。

先月、文科省は、来年度の概算要求を発表した。その中で最も予算が割かれていたのはリカレント教育だ。今回は文科省の同領域に関する予算内容を見ていくとともに、他国の現況について共有したい。

リカレント教育概算

概算要求では「リカレント教育等社会人の学び直しの総合的な充実」が掲げられており、総額約122億円に及ぶ。前年度予算額は約88億円だったため、大幅な増額だ。概算は3つの軸から成る。

1つ目の「社会人向けの実践的なプログラムの開発・拡充」では、地域のニーズを踏まえた出口一体型の人材養成システムの構築に約25億円と、最も多額の予算が要求されている。その他に、教員免許状を取得しつつも、教員として一度も勤務経験がない就職氷河期の社会人などが、教職へ転職するのに必要な知識を身につける講習の開発にも、新規の予算要求がされている。個人的には就職氷河期世代だけではなく、広く社会人に教職への門戸が開かれれば良いと考えている。

2つ目の軸は、「リカレント教育を支える専門人材の育成」。実務家教員の育成、同教育を戦略的に展開する人材の育成に計約7億円が予算要求されている。

そして3つ目の軸が、「リカレント教育推進のための学習基盤の整備」だ。女性の多様なチャレンジを支える学びなどに、約1億5000万円が要求されている。

米国、シンガポール

米国では終身雇用という考えがなく、転職が当たり前の社会では、学べば学ぶ程、能力をつければつける程、従来より賃金上昇につながるという考えが根強い。そのため個々で自発的に学ぶ精神も盛んで、大学に通学して学ぶ人もいれば、オンラインラーニングで学ぶ人も多い。

MOOCと呼ばれる大規模オンライン公開講座の受講も盛んで、edX、Udacity、Courseraなどサービスも多様だ。現在では、学べないテーマがない程充実している。5Gが普及すればスマホで受講する人も増加し、オンラインラーニング領域はますます活況を呈するだろう。

シンガポールに目を向けてみると、2015年度予算から「Skills Future」プログラムが創設されたことが注目される。シンガポールの全国民が職業スキルを向上していくためのプログラムで、当初は25歳以上の国民に一律約4万円分のポイントが付与され、政府が提供するさまざまなプログラムに活用できる設計だった。今では対象年齢が学生にも拡大している。

シンガポールは資源がないと言われ、唯一の資源が人材だとされている。一方で、受験競争は激しく、小学6年時に実施される試験が人生を左右するとまで言われている。そのような中、その1度の試験で決まることなく、全ての国民が何らかの知見や技術を習得し、職業スキルを向上させることが、同国における最重要課題と位置づけ開始された。国を挙げてリカレント教育が促進されているのだ。

OECDが2012年に実施した「国際成人力調査」によれば、日本の社会人は先進国中、最も学んでいないようだ。30歳以上の通学率を元にした調査で、オンラインで学んでいる人を加えたら幾分か結果は良くなるだろうが。

宮崎新富町での新しい取り組み

今月22日、23日に、宮崎県新富町で社会人対象の学びのツアーを地域商社「こゆ財団」が実施された。その名も「レア(れあ)旅」だ。

7月に出版した拙著『レア力で生きる』をもとに、これから必要な学びについて、新富町を舞台に集中して考えた。定員20人が1日もたたずにすぐ埋まってしまったことは非常な驚きだったが、翻って考えれば、それほど社会人の学びが今求められており、これまでそれを全面的に掲げたプログラムはほとんど存在しなかったのだろう。

何かを学ぶ前に、いったん立ち止まり、まず自分自身についてじっくり考える時間が重要だ。日常ではないコンフォートゾーンを抜けたところで実施する化学反応を、参加者とともに楽しんだ。

(スタディサプリ教育AI研究所所長/東京学芸大学准教授)