教師が国際的視点を持てる海外研修を

教育新聞特任解説委員 鈴木 崇弘

筆者は、9月初旬から中旬にかけて、中国を訪問し、大湾区に関する調査研究を行った。

大湾区は、日本ではまだ広く知られてはいないが、中国の香港およびマカオの2つの特別行政区と広東省の9都市を含む、近年目覚ましく発展中の、ポテンシャルが非常に大きなエリアである。

今回は、時間的制約もあり、広州市、珠海市、深セン市そして香港で現地調査を行った(注1)。

中国人人材の大きな変化

その調査の全体については、別の機会に譲るが、本稿では、人材に焦点を絞って論じる。

筆者が、本格的に中国本土の方と接する機会を持ったのは、米国に初めて留学した1980年ごろからだ。

その頃に会った中国の方は、失礼な言い方をすれば、非常に貧相で貧しい感じで、中国が遅れていることを強く感じた。また、彼らの発言の多くは枠にはまり、教条的な意見だったと記憶している。

その後も何度か中国を訪れたが、先の中国本土の方への印象が大きく変わったのは、筆者が勤務する組織に研究者を招聘(しょうへい)するために、北京で面談をした時だ。

その際に、中国本土の方や中国社会が変わってきたと実感した。それが、恐らく、1990年代の終わり、20世紀の終わりの時期だ。

そして今回の中国での調査でも、中国本土の多くの方々(その多くは若く海外経験を積んでいて、いわゆる「海亀族」であった)に会い、意見交換する機会があった(注2)。

そして感じたのは、中国本土における人材の質がさらに高次になったということだ。

彼・彼女らは優秀なことはもちろんだが、外国語に堪能であり、非常にオープンマインドで、自身の意見を明快に表明しており、中国社会も、制約はありながらも、急速に大きく変化してきているのを感じた。

付言すれば、ルックスも洗練され、おしゃれですてきだった。

筆者は、所属の大学で多くの中国人院生に教鞭(きょうべん)をとっているが、ここ数年感じていたこのような変化を、今回の現地訪問で、さらに鮮明に実感した。

読者の方々の多くもすでにご存じのように、世界はグローバル化し、グローバル人材育成やグローバル人材獲得における競争が起き、激化している。

今回、中国の現地で出会った方々は、グローバルに活躍し、そこで勝ち抜いていける人材であるといえるだろう。

日本における教育

他方、日本は、相変わらず、偏差値教育、就職活動(就活)、新卒入社などを中心に、人材育成や人材獲得が行われている。

日本の初等レベルの公教育への評価はいまだ高いが、大学などの国際的評価は急速に低下している。

また政治・政策、メディアの多くは、国際社会が大きく変貌し、日本が先進国グループから滑り落ちようとしてきている中、残念ながら相変わらず国内的視点でのみ動いており、国際社会やそこにおける日本の状況を冷静に見て、国民に周知しようとしていない。

このような状況で教育を受け、成長する子供たちは、一部の例外を除き、グローバル化した世界で生き抜ける知見や経験・視点を持つのは難しいだろう。

若い世代が、海外に行くことが減って久しい。

だが、最近は、「トビタテ!留学JAPAN」プログラム、タイガーモブなどの海外インターンシップ、インフィニティ国際学院、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)、神石高原学園などの、国際社会とつながる、さまざまな新しい試みも行われてきていて、日本の若い世代が個人として、国際的人材として成長する機会や場もつくられてきている。

しかし、大変貌する世界の中で、日本の教育を国際的レベルに向上させ、国際的人材を生み出すには、これだけでは不十分だ。

特に教える側の国際性や国際的視点は低いといわざるを得ない。

1つの提案

そこで提案したい。教員免許の取得や教員免許更新のために、教員(志願者)が、何らかの海外経験をすることを義務付けてはどうだろうか。

例えば、文科省が資金を拠出し、1カ月程程度の必修の海外研修プログラムを行う。

その際には、異なった地域・年代・科目の教員(志願者)でグループを構成し、プログラム中は、現地で学んだことを徹底的にグループで討論・発表するほか、インターンシップなどをする。

これを通じて、教員に変貌する世界を体感させ、その成果を生徒への教育や現場の変革に生かしてもらう。

教員は、業務過多の状況にあるが、その状況を克服するきっかけにもなるし、生徒への教育効果も大きいだろう。

  • (注1)現地では、Find Asiaの加藤勇樹氏、ACIPのAndres Wang氏、香港貿易発展局や深セン市駐日経済貿易代表事務所に、アポの手配やガイド・支援などでお世話になった。感謝したい。
  • (注2)中国のエリート層であり、上層の優秀な人材だろう。だが、先述の方々も、当時の中国本土のエリート層だろう。

(城西国際大学大学院教授・日本政策学校代表)