人権尊重教育の充実 人間の尊厳についての学習を

教育新聞論説委員 工藤 文三

児童虐待の深刻化と対応

厚労省は8月1日、「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」(第15次報告)「平成30年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数及び『通告受理後48時間以内の安全確認ルール』の実施状況の緊急点検の結果」を公表した。

後者の児童虐待相談対応件数は15万9850件で、1990年度以来最多となった。内訳は「心理的虐待」「身体的虐待」「ネグレクト」「性的虐待」の順で、主な増加要因は心理的虐待に係る対応件数の増加、警察などからの通告の増加としている。前者の2017年度中の児童の虐待死については、心中を除いた死亡事例は50例(52人)で、そのうち0歳が最多で28人となっている。

児童虐待の防止については、2000年に児童虐待防止法が施行され、児童虐待の定義や早期発見、通告義務、強制調査などが定められ、虐待防止に向けた基本的な事項が明確になった。

その後、取り組みが進められてきたが、深刻化する児童虐待に対して、今年3月には「児童虐待防止対策の抜本的強化」に伴う対策が示された。また、6月には「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律案」が参議院で可決、成立した。

この法律は児童の権利擁護、児童相談所の体制強化および関係機関の連携強化などを内容としている。児童の権利擁護については、親権を持つ者が児童のしつけに際して体罰を加えることを禁止、民法が規定する監護と教育、つまりしつけに必要な範囲を超える戒めを禁止している。

子供の貧困

子供の貧困率は15年の調査では13.9%となっている。子供の貧困率とは、可処分所得の中央値の半分を「貧困線」とし、この線に満たない子供の割合を指す。一般的に家庭に経済的余裕がない状況では、子供の養育に関するさまざまな配慮が不十分になり、ともすれば生活習慣や健康管理、自己肯定感などにも影響を与える可能性がある。

14年に子供の貧困対策の推進に関する法律が施行され、子供の貧困解消に関する理念と貧困対策の基本が定められた(19年、一部改正)。第1条の冒頭では、「子どもの現在及び将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう」にと、基本的な考え方が示された。

経済的に苦しい世帯が増加した背景には、ひとり親世帯の増加があると推測される。厚生労働省の調査結果でも、ひとり親世帯の所得は一般世帯に比べて低くなっている。

学校教育における取り組み

児童虐待や子供の貧困といった課題については、法令にのっとって多様な事業が進められている。

ただ、これらの事業は現状の改善と、必要に応じた社会的支援が中心と考えられる。児童生徒が、将来どのような家庭を営み、子供の尊厳を守り、どのように育てていくべきかは、学校教育で計画的に進めることが必要と考える。家族や家庭の在り方、親の役割や責任、子供の尊厳と養育などの学習は、特に中学校以降着実に進めていく必要がある。

高等学校新学習指導要領の「家庭基礎」には、「A 人の一生と家族・家庭及び福祉」に「親の役割と保育」「子どもの健全な発達のために親や家族及び社会の果たす役割の重要性」の事項が示されている。「解説」には、乳幼児期の「愛着の形成」や、児童憲章、児童福祉法、児童の権利に関する条約などに示される児童福祉の理念に触れるよう記されている。これらの学習を進める際には、児童の権利条約に示されている子供の「最善の利益」を基本とした学習をしたい。

一方、公民科の「公共」も関連する重要な科目である。今回の公共の構成は、人間の尊厳や真の意味での人間としての在り方生き方に関する学習を深める点で限界があると考える。

ただ、家庭科やLHRなどの学習とも連携しながら、子供の人間としての尊厳について、学習する場面を設けるようにしたい。